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The McCoys – Infinite McCoys (1968)

 「Hang On Sloopy」のヒットを経てビート・ポップ時代のトンネルを抜けたThe McCoysは、アルバム『Infinite McCoys』で新たな境地に達した。サイケデリック・ブルースを基調としながらも、いずれの曲にも非常にエクスペリメンタルで自由な試行が満ちている異色作だ。
 実験的なSEだけで構成された「Hell」や、「Jesse Brady」などに見られるブラス・アレンジと極端な音のパンニングといった装飾は、本来実力派であるバンドの演奏の方向性を乱すものとして時に攻撃されがちだ。しかし、このレコードにはきらびやかなバン・レーベル時代の残り香を感じさせる「Song For Janie」や、「Genesis Through A Window」の強烈なRick Derringerのソロ・ギターがしっかりと盛り込まれている。
 だが、最も意外性を放っているのは「Resurrection」でDerringerとBobbie Petersonが披露したKenny Burrell風のジャズ・セッションである。本作には先のような実験性と同時に、都会的なジャズからの強い影響が見て取れるが、それは「Genesis Through A Window」のイントロのビブラフォンや、「Union City Waltz」で垣間見えるソウルフルなオルガンで顕著だ。
 バンドは次作『Human Ball』でロックに回帰し、さらにJohnny Winter And The McCoysとして活動を行う。バンド名に付いていたバブルガムのイメージを恐れた周囲のアドバイスによって〈The McCoys〉という名前は消滅してしまうのだが、『Infinite McCoys』にあふれる音楽スタイルの多様性は、そうした「Hang On Sloopy」の呪縛から逃れようとする〈もがき〉でもあったのだろう。