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Eggs Over Easy – Good 'N' Cheap (1972)

 The AnimalsのChas Chandlerによって見いだされ、彼のプロデュースによって英国からデビューしたアメリカ出身のアーティストは?答えはJimi Hendrixだ。本来ならばニューヨーク出身のパブロック・バンドEggs Over Easyも、Hendrixと同様のデビューを果たすはずだったのだが、運の悪いことに彼らはビジネスの問題に巻き込まれてしまった。1971年のロンドンで行われた録音は、未発表の憂き目を見てしまう。
 バンドは契約の関係でイギリスでの長期滞在を強いられ、現地のパブを回ることになるが、その中で出会ったのがBrinsley Schwarzである。彼らは互いに研鑽を重ねあい、さらにはBarry RichardsonがBees Make Honeyを結成するきっかけさえもたらした。こうして英国のロックシーンに間接的な影響を与えた当のEggs Over Easyだが、やっとアメリカに戻ったとき彼らの手元はなにも残っていなかった。
 心機一転して、A&Mから発表された本作『Good 'N' Cheap』は、彼らの膨大なレパートリーから選ばれた11曲の良質なカントリー・ロックからなる。Austin De Loneをはじめ、マルチ奏者であるメンバーは皆コーラスとライティングを巧みにこなしている。De Loneによる「The Factory」「Don't Let Nobody」はハードなギター・ロックだ。本作はプロデュースをLink Wrayが手掛けているということもあってか、71年のロンドン・セッションと比較してもギターの音はよりソリッドに仕上がっている。Brien Hopkinsはカントリー調の「Runnin' Down To Memphis」を提供し、Jack O'Haraの筆による渋いアコースティックなナンバー「Arkansas」は、独特の温かみを持っている。
 『Good 'N' Cheap』はカントリーとロックンロールの上質なブレンドであり、これはイギリスのパブ・ロッカーたちが目指した理想の姿でもある。バンドは82年に2枚目のアルバムを発表した直後解散したが、かつてイギリスのドサまわりで彼らが蒔いたアメリカン・ロックの種は、結果として英国のパブロック・ブームとして華開いた。Eggs Over Easyの旅は決して無駄足などではなかったのだ。