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救ひを求むる人々 / The Salvation Hunters (1925)
〈思想はよく国家をも作り、また其を壊すべし。凡そ思想の其に愈るの何となれば則ち、思想の艱難より出で、沈黙の中に生き、而してその使命果つるを以て死と為せばなり〉
若々しい哲学を湛える序文で幕を開ける『救ひを求むる人々』は、Josef von Sternbergの監督第一作であり、なけなしの財産をうって完成させた労作でもある。5000ドルにも満たない予算でスター不在のなか撮影された本作は、自主製作ながらその知的な造りがハリウッドの才人たちの目に留まり、ユナイテッド・アーティスツを通して広く公開され話題となった。
海底の泥を淡々とさらう浚渫船が停泊する港。どん底から這い上がろうとするがどこか頼りない青年と、若くして人生を軽蔑しているやさぐれ女、天涯孤独の子どもが出会う。協力して生き抜こうと決心した3人は、街で言い寄ってきた怪しい男に住処をあてがわれ、働き口を紹介してもらうことになるのだが、ポン引き男の目的は女を街娼に仕立て上げることだけだ。
社会の下層を描いた自然主義のストーリーには、そのみずみずしい映像美の所々に示唆に富んだショットがちりばめられている。登場人物たちの日の当たる場所で生きたいという願いは、海底で澱んでいた泥が掬われるさまに重なり、新たな生活へ飛び込もうと決意をするシーンは、黒猫が箱から飛び出すさまから導入される。他にも、壁際に立つポン引きのシルエットにまるで悪魔のように角の飾りが重なるシーンや、不動産会社の看板の文句が実にうまい演出となっているなど、処女作とは思えない映像の作りこみが見どころだ。
それと同じくらい、Sternberg自身の社会的なメッセージが込められた字幕もまた印象的だ。ラストで新たに歩き出す主人公たちを讃えるインタータイトルはさながら演説の様相で、その仰々しさゆえに批判も浴びたがCharlie Chaplinはその点を高く評価した。