Can – Monster Movie (1969)
Canの音楽性に決定的な影響を与えたのはOrnette ColemanやJohn Cageであり、結果的に彼らはロックという土壌に根差しながらも、ブルース音楽からの完全な決別を果たした。そうした特異な出自はCanの音楽に不安感と謎の高揚をもたらしている。ソウル音楽に立脚した従来の歌唱から逸脱したMalcolm Mooneyのボーカルは、まるで呪詛のような表現力を持っていたうえに、Holger CzukayとJaki Liebezeitのリズム隊が生み出すミニマルなグルーヴは新たなロックの境地を切り開いた。
Irmin Schmidtの機械的なオルガンからスタートする「Father Cannot Yell」は、Czukayの強靭なグルーヴによってポスト・パンクの誕生を10年先取りしたようなナンバーとなった。Michael Karoliは絶妙なタイミングでフィードバック・ノイズを繰り出していくが、彼のロック・ギタリストとしての側面がさえわたった「Mary, Mary, So Contrary」や「Outside My Door」にはThe Velvet Undergroundからの影響がほのかに見て取れる。おそらくこういった曲が無ければ本作はロック作品として受け入れられることすらなかっただろう。
B面を埋め尽くす「Yoo Doo Right」はその後のCanの作風の一つの基盤となった革新的な曲だ。Liebezeitのドラムはまるで生き物の呼吸のように延々と反復し、自我を保つのに必死であるかのようなMooneyは、彼らの生み出すビートに沿いながら次々と鬼気迫る言葉を吐き出していく。
当初『Monster Movie』は自主レーベルからのごくわずかなリリースのみだったが、その後のリバティ・レーベルの再販によってグループは国外からの正当な評価を受けつつあった。しかしその矢先に、Mooneyが精神科医によるドクター・ストップを受けてしまったため、バンドは無二の存在だった彼に替わる逸材を見つける必要に迫られてしまう。とある風変わりな日本人アーティストとの出会いによってその問題は見事に解決されたが、Mooneyは89年の『Rite Time』で再びCanに参加している。