Roosevelt Sykes – The Return Of Roosevelt Sykes (1960)
ミスター・ハニードリッパー、Roosevelt Sykes堂々の登場だ。黎明期から活動するピアニストとしては、おそらくアメリカ中で最も華々しい活躍を続けてきたのがSykesだった。1929年に「44 Blues」を発表してからはオーケー・レーベルを中心にレコード会社からひっぱりだこの状態で、おかげで彼は多くの変名を用いなければならず、戦後は『The Return Of』を皮切りに、演奏スタイルを現代的にアップデートしながらアルバム録音やコンサートをこなしていった。
名エンジニアRudy Van Gelderの下で録音された本作は、ブルースの古典がジャズ畑のバック・バンドによって陽気に、そしてなかなか上品に仕上がっている。「Drivin' Wheel」は36年に吹き込まれたナンバーだが、興味深いのは歌詞の逆転である。36年版では〈女が自分になんでも尽くしてくれる〉という内容だったが、本作では男女の立場が全くの反対になっている。
ほかにもムーディーなインスト「Long, Lonesome Night」や、「Stompin' The Boogie」と「Runnin' The Boogie」といったブギウギのバリエーション、そしてFloyd BallとFrank Ingallsのギターの存在感が活きた「Hey Big Momma」など、見事な味わいのブルースがアソートのように詰め込まれている。極めつけはやはり大名曲「Night Time Is The Right Time」で、Leroy Carr風に仕上がっていた戦前版と比べるとさすがにボーカルのハリこそ落ちてはいるが、それもひとつの味に変わるのがブルースのマジックである。
だがこのレコードはSykesのキャリア後期の前菜にすぎない。60年代以降怒涛の勢いで発表されていくアルバムたちは、そのいずれにも彼の深遠な魅力があふれている。次に聴くのはデルマークか、コロンビアか、それとも近年発掘されたライブ盤か。きっと大いに迷うことだろう。