Free – Fire And Water (1970)
Freeは気難しいバンドだった。ギグが行われる晩、彼らは何時間も前に会場に入って機材を整え、本番では常に100%の力を引き出すように演奏した。音楽に本気だったが故に日常的な衝突も多かったが、彼らのそのプロフェッショナルな完璧主義はブルースを再定義し、狂信的なリスナーを着々と増やしていった。
それだけに、「The Hunter」のような〈踊れる〉ナンバーが彼らにはもっと必要だったのである。簡潔でノリのいいメロディに観客がコーラスをかけることで完成する名曲「All Right Now」の誕生は、Freeにとって天啓にも等しかった。しかし、シングル・カットに際して曲を短くしようとしたChris Blackwellと、それに反対するバンドの間ではかなりのいさかいが生まれた。後にミックスも修正されることになるシングル版「All Right Now」の出来に彼らは当初不満を抱いたが、予想を大きく上回るヒットはポップ・ロックを好む層も見事に取り込み、結果として確かな追い風に変わった。
だが、「All Right Now」以外にもハイライトがいくつもあるのが本作の恐ろしいところだ。タイトル・トラックで響くPaul Kossoffのギターは静かに燃える青い炎のように、ジワリとしたブルースの熱気を伝える。スローなテンポで活きるSimon KirkeのドラムとAndy Fraserのヘヴィなベース・ソロにノックアウトされる「Mr. Big」や、Paul Rodgersのボーカルの渋みがさく裂するバラード「Oh I Wept」は、彼らがハード・ロック・グループとして円熟しつつあったことを示している。
思わぬシングル・ヒットにより—、本格志向のブルース愛好家だけにとどまらない幅広いファンを獲得したFreeだが、疲労の溜まるツアー生活や次作『Highway』の商業的な不振など、解散の要因もまた確実に蓄積していった。Fraserはこう振り返る。〈僕たちは二週間に一度は解散しているようなものだった〉——持続とは容易なものではないようだ。