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Magic Sam – Magic Sam Live (1981)

 ブルースの革新者として将来を嘱望されていた"Magic Sam" Maghettのライブ・アルバムは、2か所の会場の録音から構成されており、それぞれが持つ意義には対照的なものがある。1枚目は60年代の前半にシカゴのアレックス・クラブで録音され、古巣とも言うべき場所で彼の真価が存分に発揮されている重要な記録である。
 コンサートのオープニングはチーフ・レーベル時代の印象的なシングル「Every Night About This Time」だ。Antoine "Fats" DominoのR&Bをベースとしたタメの強い歌と、ホームの暖かい雰囲気に包まれた完璧なC&Rには、彼のシンガーとしての魅力が凝縮されている。ギターの熱量も見事の一言で、スロー・ブルース「Tore Down」におけるA.C. ReedとEddie Shawのホーンの重み、「Looking Good」でバンドが生み出す軽快なリズムも素晴らしい。
 対して後半は1969年のアン・アーバー・フェスティバルにおけるセットリストである。Roosevelt SykesやMuddy Watersをはじめとしたブルースの重鎮が一堂に集っていた中で、急ごしらえのバンドを率いながらも、Magic Samがブルース新世代としての若さと勢いを存分に見せつけたもう一つのドキュメントだ。
 すでにPaul Butterfieldと共に一旗揚げていたSam Layの参加は、Magic Samの演奏にロック仕込みのパワフルなビートをもたらした。特に「I Feel So Good (I Wanna Boogie)」の加速度的なスピード感は比類のないもので、演者の中でも最も知名度が低い部類だったはずのMagic Samが見事な喝采を受けているのが分かる。「Sweet Home Chicago」はRobert Johnsonのクラシックを下地としており、このバージョンはロックのテイストを大胆に取り入れたアレンジでモダン・ブルースの完成形と呼ぶべきものだ。
 いずれの録音も音質は貧弱だが、演奏の持つ爆発的なエネルギーはブルースの歴史の転換点にMagic Samが存在していたことをはっきりと示している。重要性に関して疑問や反論の入る余地などは全くない。