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Donald Byrd – Fuego (1960)

  全編をDonald Byrd自身のオリジナル曲で構成した『Fuego』には、ラテン趣味が芽生えた『Byrd In Flight』以前の、Byrdのファンキー・ミュージックに対する深い尊敬と造詣がストレートに表れている。サックスのJackie McLeanやピアノのDuke Pearsonなど、彼の初期キャリアを彩った最高の共同作業者がそろったセッションには、ブルース、ゴスペルの要素がちりばめられているが、それは曲のタイトルを見ても明らかだ。
 スペインの言葉で炎を示す「Fuego」は、熱のこもったファンキー・ジャズを展開するオープニングにふさわしいナンバーだ。ドラムのLex Humphriesは「A Night In Tunisia」を叩く時のArt Blakeyのようにメンバーを鼓舞し、McLeanのサックスはそれを上回るほどのブロウで応えている。一転して「Funky Mama」は意外にもスローなブルースだ。職人肌であるPearsonは常に冷静であり、どんな曲調でも的確なトーンでセッションに安定をもたらしている。
 またもやBlakeyの影響を思わせるような「Low Life」や、センチメンタルな「Lament」へと続いていくが、アルバムの最後を飾った「Amen」には牧師の息子として育ったByrdのルーツを垣間見ることができる。Pearsonの軽快なイントロで始まり、敬虔な悦びを表現したこの曲は、小品ではあるが紛れもないByrd流のゴスペルの実践だ。
 ハードバップに始まり、エレクトリックへの傾倒と90年代からヒップホップ・サンプルとして再評価されるまで一貫していたのは、Byrdの持つファンキー・フィーリングである。本作はそれが非常にバラエティに富んだ表現で示されている紛れもない名作だ。