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ボー・ジェスト / Beau Geste (1926)

 英国舞台演劇の世界からハリウッド人に転身したRonald Colmanは、サイレントからトーキー初期にかけて活躍した正真正銘の映画スターだ。彼の二つに分かれた上品な口ひげはわが国では〈コールマン髭〉などと呼ばれ、Harold Lloydのメガネと並ぶトレード・マークだった。『ボー・ジェスト』はそんなColmanの代表作であり、同じくイギリス出身の作家P.C. Wrenによる小説を上質な戦争ドラマとして映画化したものである。
 物語は、サハラ砂漠でアラブ兵の猛攻を食い止めていたフランス軍の駐屯地で起きた、4つの怪現象から始まる。砦に攻め入るアラブ兵との戦いの後、なぜかほとんどの兵隊が、立ったまま全滅していたこと。その部隊を指揮していた軍曹と、その部下である兵隊の2人の遺体が消えたこと。戦闘の後に応援に駆け付けた若いイギリス兵が、中の様子を偵察しようと砦に入ったきり消息を絶ったこと。さらにその直後、砦が謎の火災によって全焼したこと。これだけ見れば、本作は戦場で起きた不可思議なミステリーだ。そして物語はすぐさま20年前にさかのぼり、Colman演じる兵卒ボー・ジェストの美しい幼少期の思い出が回想される。
 映画は、サイレント時代の名優による最高の演技(特に軍曹役のNoah Beeryは実に憎たらしい悪党ぶりである)と、息をのむ空前の騎馬アクションの数々によって彩られている。クライマックスにおいて、冒頭で提示された謎があらゆる伏線を回収しながら、一気に収束していく様もまた爽快だ。
 家族愛と名誉を尊重する英国人好みのストーリーは、これまでに実に3度にわたって映画化された。現代人にはいささか硬派すぎにも映るこの物語のテーマは、アラブの古いことわざとして紹介されているこの字幕に集約されているといっていいだろう。<男女の愛は月のごとし。満つる時あれど欠くることあり。兄弟の愛は星の光なり。その輝きは永遠に変わらじ>