アスファルト / Asphalt (1929)
名プロデューサーErich Pommerと監督Joe Mayのコンビによる本作は、サイレント晩期らしい円熟味を感じさせるリアリズム映画の傑作だ。Gustav Fröhlich演じるアルバートは老警部の息子で、自身も交通巡査を務める警官である。ある日彼は、宝石店でダイヤを盗んだエルゼ(Betty Amannが抜擢された)という若い女を連行するが、その最中に彼女の誘惑を受けてその色香に屈服してしまう。アルバートは良心の呵責に悩むが、悪女のエルゼもしだいに彼の純情に絆されていく。しかし、そこにエルゼの情夫である悪漢ランゲンが姿を現したことで、状況は取り返しのつかない深みへとはまっていくのだった。
純朴な青年警官がLouise Brooks風の悪女につけ込まれる、というプロットは典型的な通俗小説のそれだが、この映画にはそれらを鮮やかに演出するシークエンスがたくみに盛り込まれている。冒頭のうだるようなアスファルトの舖装工事から冷たい雨の道路が映る対比に始まり、二重露光を利用したせわしないベルリンの街の喧騒が見事に描き出される。人間の心理描写も完璧なレベルにまで研ぎ澄まされており、息子の堕落を知った両親の苦悩、特に父親を演じるAlbert Steinrückの圧倒的な演技力は必見だ。
終盤にかけて、物語がハッピーエンドを迎えることはないと観客は確信させられるが、それが却ってラストにおけるエルゼの告白の場面のカタルシスを加速させる。若き二人の抑制の効いた演技はお互いを思いやる気持ちからくるがゆえに、別れのシーンの感情の爆発が観る者の涙を誘う。