Cannonball Adderley – Somethin' Else (1958)
1958年3月、ヴァン・ゲルダー・スタジオにはレーベルとジャンルの枠を超えた錚々たるジャズマンたちが一堂に会していた。翌年に『Kind Of Blue』でモーダル・ジャズの金字塔を打ち立てるMiles Davisや、ファンキー・ジャズ・ムーブメントをけん引する真っ最中のArt Blakeyと、これから先頭に立つことになるCannonball Adderleyたちだ。50年代はジャズが様々な分岐を示した時代だったが、彼らはこの時ばかりはブルーノートらしいハードバップに立ち返っている。
かつてクスリで心身ともにボロボロだったDavisはブルーノート・レーベルから仕事を与えられて支えられていた時期があったが、その恩を返す形でこの歴史的なセッションは行われた。Davisにとっては自らのバンドで頭角を現していたAdderleyの実力を知らしめるいい機会にもなった。
しかし、このアルバムでジャズ界に名が売れたのはAdderleyだけではない。もともとシャンソンのスタンダードだった「Autumn Leaves」が、ジャズの名曲として知られるようになったのは本作の演奏に因るところが非常に大きい。時代を感じさせる長めのイントロダクションに始まり、Davisの描く糸のようなメイン・テーマが実に繊細な流れを生み出していく。そうして出来たサウンドの流れを、サックスのAdderleyとピアノのHank Jonesは見事かつ的確に引き継いでみせる。中間でふたたびDavisがソロを執っているが、ミュートでここまでの抒情と力強さを両立した演奏は、後にも先にもこの演奏くらいだろう。
ブルースに徹するAdderleyと、モードを実践するDavisのコントラストが印象的な「One For Daddy-O」や、文字通りAdderleyの独壇場となった美しい「Dancing In The Dark」など聴きどころは多いが、「Autumn Leaves」の印象があまりに強いのも事実だ。名演がすぎるのもなかなか考え物だが、本作が一度は聴いておくべきアルバムである、という事実にはなんの変りもない。