Friedrich Gulda – It's All One (1970)
1970年、Friedrich Guldaはすでにジャズの世界に10余年どっぷりと浸かったバップ・プレイヤーで、多くの優れた作品や前衛音楽を発表してきた。しかし、当然ながらクラシック音楽のファンが目を通すようなピアニスト紳士録の中では、Guldaのジャズ遍歴はあくまで二次的なものとして触れられるばかりで、彼らは本作のようなアルバムを一枚一枚吟味することはあまりしたがらなかった。
70年代のGuldaが、ピアノとフリー・ミュージックに強いMPSからアルバムを出したことは驚くに値しない。本作はドイツ出身のドラマーKlaus Weissと組んで出したエレクトリック・ジャズの名盤で、A面の多重録音を駆使した実験的な三重奏が聴きものとなっている。強力なジャズ・ロックのイントロから緊張感のあるスイングへ展開する「Ouverture」、技巧的ながらほどよくリラックスした「Bossa Nova」まで自由自在だ。第三部の「Aria」は前述のクラシック・ファンさえも虜にした名曲で、ここでのGuldaの美しいトリルは、バロック風に聴こえると同時にモーツァルトのピアノ・コンチェルトの繊細な面影さえ感じさせる。後のコンサートでも「Aria」のパートだけが披露されることも多かった。
B面はより前衛度が増す。「Meditation III」では長いドローンから嵐のようなフリー・ジャズへなだれ込み、「Blues Fantasy」ではスピード狂のリズムとスタンダードなスイング感覚を見事に使い分けながらブルース音楽の脱構築が行われている。