見出し画像

Captain Beefheart And His Magic Band – Safe As Milk (1967)

 めでたくA&Mを追い出されたCaptain BeefheartことDon Van Vlietは、7インチではなくアルバムで自らの音楽を表現できる場を求めてブッダ・レーベルへとたどり着いた。奇妙な魚の仮面をつけてアバンギャルド・ジャズに走る以前の彼の音楽は、まるでHowlin' Wolfの首を締めあげたようなサイケ・ブルースを展開していた。実際のところ、初期の曲がガレージ・コンピ『Nuggets』シリーズで取り上げられているように、リスナーを突き放しているように見えて、音楽的なルーツ自体ははっきりと示されていたのだ。
 「Sure 'Nuff 'N' Yes, I Do」は、意外にもサウンドと歌詞の面においてMuddy WatersとGus Cannon両者の古典ブルースを折衷している。非常にストレートな歴史の掘り下げ方をしたこの曲はブルースマンとしてのVlietの実力を聴く者に確信させてくれる。サイケポップとしては最上の出来となった「Yellow Brick Road」は、若き日のRy Cooderがデルタ仕込みの見事なスライドギターを聴かせる。アルバムのハイライトはふらついているが骨太なサウンドの「Abba Zaba」で、歌詞で描かれる世界はまさしくシュールレアリズムのそれだ。タイトルはVlietの好物であったキャンディ・バーの名から採られており、当初バンドはアルバムのタイトルにもこの菓子の名前を引用しようとしていたが、製菓会社は商標の使用許可を下ろさなかった。
 めまいを起こしそうな「Autumn's Child」でアルバムは幕を閉じるが、短いながら組曲のような構造をしたこの曲には、The Mothersのように散らかったコーラスワークも含まれている。こうしたリスナーを振り回す音楽の展開のさせ方は後の『Trout Mask Replica』にもつながっていくものだ。