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R.E.M. – Automatic For The People (1992)

 カレッジ・ロックの旗手だったR.E.M.のメジャー・レーベル2作目『Out Of Time』は、ポップな作風で見事に全英チャートの1位を獲得した。しかし翌年に生み出されたのは、かつてなく陰鬱なサウンドに満ちているが、同時に途方もない美しさを湛えたアルバム『Automatic For The People』だった。
 軋轢、人間の心の傷、そして死を思い起こさせる歌詞は原点回帰した暗い曲調に乗り、Michael Stipeの突き刺さるようなボーカルによって見事に実体化していく。思い出してほしい。Bill HaleyやDavid Essexを引用した名曲「Drive」以上に、ロックンロールの暗いイメージを浮き彫りにした歌がこの世界に存在するだろうか?「Everybody Hurts」に散りばめられた言葉は、体ではなく心の痛みを抱える人々にしっかりと寄り添い、〈みんな痛いのさ〉と囁くStipeはあなたと同じ苦しみを共有してくれる。Led ZeppelinのJohn Paul Jonesをストリング・アレンジの監督に据えたサウンドは、音の仰々しさと歌の真剣味が損なわれない絶妙なバランスで響いてくる。
 「Man On The Moon」は、夭折した個性派コメディアンAndy Kaufman(ついでにElvis Presleyにも)に捧げられた曲で、後にKaufmanの同名の伝記映画にインスピレーションを与えている。前述の「Drive」ではチクリと、「Ignoreland」では露骨に社会に言及するStipeのスタンスも健在であり、本作はアメリカン・チャートの2位を記録する。しかしR.E.M.は悩める若者たちの信頼も勝ち取ってみせた。これはオルタナティブ・ロック・バンドにとっては何にも代えがたいものだったろう。