Kellee Patterson – Maiden Voyage (1973)
『Maiden Voyage』はソウル・シンガーKellee Pattersonにとっても、Gene Russellが立ち上げたブラック・ジャズ・レーベルにとっても異色といえる作品である。1971年のミス・インディアナに黒人で初めて選ばれ、その後のミス・アメリカ・コンテストでも特別賞を受賞した彼女の経歴を踏まえれば、当時ブラック・パワーを高く標榜していた同レーベルからデビューしたことは自然な流れのようにも思える。しかし本作には力強いファンクネスや実験性というよりは、おだやかで繊細なソウルが通底しており、「Soul Daddy (Lady)」のような陽気なナンバーにも洗練された雰囲気が漂う。
Herbie Hancockの書いた有名曲「Maiden Voyage」では、Everett TurnerのトランペットとGeorge Harperのフルートをフィーチャーしており、過不足のないアンサンブルで見事にPattersonの歌声の魅力を引き立てている。異国風な「See You Later」や、John Heardのベース以外のサウンドは抑制された「You」など、どの曲でもアレンジの隅々に心配りがなされている。
特に優れた一曲を挙げるとすれば、煙が立ちのぼるようなフルートのイントロに始まる「Magic Wand Of Love」だ。Ernest Vantreaseのジャジーなキーボードが心地いいメロウ・ソウルの真の傑作である。
サンプリングの宝庫となった他のブラック・ジャズのカタログとは、また違った視点で再評価された一枚だ。ソウル・ファンもジャズ・ファンもコレクションに加えるべきだろう。