見出し画像

Cher – Cher (Gypsys, Tramps & Thieves) (1971)

 今思えば皮肉なことだが、夫兼プロデューサーであるSonny BonoとのユニットSonny & Cherを飛び出し、さらに彼のレコード・プロデュースからも解放されたことが、結果的にはCherの音楽的感性に大きな飛躍をもたらした。ルーツ・ロックに接近した『3614 Jackson Highway』は、その充実した内容に見合わずヒットとは言い難かったが、本作のシングル「Gypsys, Tramps & Thieves」は特に大きな売り上げを記録する。このヒットは突拍子もないもので、キャップ・レーベルは慌ててアルバムのタイトルをシングルと同じものに変更する必要に迫られた。
 Cherのボーカルは真に迫っており、流浪の女性の生涯を描いた「Gypsys, Tramps & Thieves」の歌詞は、まるで自身の生い立ちをセンセーショナルに告白しているかのように聴こえてくる。オーケストラが重厚な「The Way Of Love」や「He'll Never Know」は今にもFrankieやElvisが歌いだしそうなアレンジだが、Cherの振舞いはまさに堂に入っており強い確信にも満ちたものだった。
 James Taylorの「Fire & Rain」やThe Holliesのヒット曲「He Ain't Heavy, He's My Brother」ではロックの領域に踏み込んでおり、特に後者にはそれまでのバージョンを超える説得力がある。本作にはCherのシンガーとしての実力が余すことなく表現されているが、もとを辿ればこのアルバムのタイトルには彼女の名前がそのまま冠されていたのだ。