ピーター・パン / Peter Pan (1924)
イギリスの文豪Sir James Matthew Barrieの戯曲をアメリカ資本で映画化した最初の作品で、観る者を何度でも童心へと帰してくれる愛すべき一本。当時10代だったBetty Bronsonは永遠の少年ピーター・パンを瑞々しく演じ、彼女にとっては出世作となった。プロットは基本的に舞台版のものと同様に作られているが、子供への愛情に満ちた演出や役者の細やかな演技は今見ても十分通用するもので、最も広く知られているディズニーのアニメーション映画にも多大な影響を与えている。
とはいえディズニー版との差異も多いのは事実だ。海賊に勝利した少年たちが海賊旗の代わりに星条旗を掲げるのはなんとも時代とお国柄を感じさせる一方、特に印象的なのは動物の造型である。ダーリング一家の飼い犬ナナや人食いワニを着ぐるみで演じたのは、動物の形態模写で知られるGeorge Aliで、第一印象こそ奇妙に見えるが、よく見ればその一挙手一投足に繊細な情感が込められているのがわかる。人魚族の優雅な佇まいや、子供たちを守るインディアンたちの衣装も実に見事な造りで、決して見飽きることがない。他にも、ピーターとウェンディの淡いロマンスがほのめかされていたり、ネヴァー・ネヴァー・ランドの子どもたちが、ラストでピーター以外全員ダーリング家の養子に迎えられるといった違いもある。
この映画ではピーターが観客に直接語り掛けるシーンが存在する。仇敵フック船長の計略によってひん死になった妖精ティンカーベルを助けるために、どうか妖精の存在を信じてほしいと観客に訴える。妖精は子供の笑い声から生まれ、子供がその存在を信じなくなったときに死ぬ、という前段のセリフはここで活き、観客の感動を呼び起こすのだ。Barrieの原作が舞台として上演されていた当時はこの場面で毎度子どもたちの大喝采が起こり、それは本作が上映された劇場も同様だったといわれている。