Moloch – Moloch (1969)
LAでのLeon Russellとの交流のあと、故郷であるメンフィスに舞い戻ったDon Nixは、かつて自身もシングルを出したことがあるスタックス・レーベル(Nixの時代はサテライトというレコード屋だった)で多くの作品をプロデュースしていくことになる。
Molochはメンフィスの泥臭いサウンドを放つスワンプ・ロック・グループで、彼らの唯一作はNixが初期に手掛けた名盤のひとつだ。シカゴ・スタイルのギタリストであるLee Bakerは、Elmore JamesやHound Dog Taylorにも負けない強烈なスライドを披露しているが、中でも興味をそそるのがヒル・カントリーのブルースマンJohnny Woodsのハープをフィーチャーした「Gone Too Long」だ。「She Looks Like An Angel」ではボーカルであるGene Wilkinsも若々しいハープを吹いている。
Nixが書いた曲の中でおそらく最も有名な「Going Down」は、Jeff Beckがハード・ロックに、Freddie Kingがブルース・ロックにそれぞれアレンジして話題となった。原点といえる本作では、Fred Nicolsonのサイケデリックなオルガンが印象的なファンキー・ブルースに仕上がっている。
「Dance Chaney Dance」は曲の造り自体は陽気なロックンロールだが、サウンドはとてもヘヴィだ。一方でNixの趣味が強く反映されたソウル・ナンバー「Same Old Blues」も登場する。アルバム『Moloch』は南部人が好むあらゆる料理がどっさりと盛り込まれたオードブルのようだ。
Molochは同年の夏にメンフィスで行われたカントリー・ブルース・フェスティバルにも出演している。ドラマーのPhillip Durhamが見事なメイン・ボーカルを執ったステージ映像は熱気に満ちており、彼らのブルース・バンドとしての実力を証明するものだった。