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Bob Marley And The Wailers – Catch A Fire (1973)

 レゲエが世界中の音楽市場に乗り込むきっかけとなった『Catch A Fire』が、これほどまでに欧米圏のリスナーたちに受け入れられたのは、身も蓋もない言い方だがChris Blackwellの手腕によるところが大きい。彼はThe Wailersがジャマイカで制作してきたマスターに、アメリカン・ロックのテイストを大いに施し、ジャマイカの未知なる音楽を広く布教する御膳立てをしたのだった。
 怒りや抵抗というテーマが独特のグルーヴに乗って放たれる彼らのサウンドは、たとえ100年後の社会でも聴き継がれているだろう。The Wailersの視線の先にあるのは、宗主国や政治だけでなくもっと幅広いものだ。「Concrete Jungle」で描かれる都会の貧困から、「Stir It Up」で繰り広げられる男女の甘いコミュニケーションまで、モチーフは様々でありながら同時に普遍的だ。
 ボーカル・グループからスタートしたこともあり、Peter ToshやBunny Livingstoneらとのコーラスの応酬が素晴らしい場面も多い。しかしセッション中に生まれた中で最も美しい歌であった「High Tide Or Low Tide」は、その穏やかさがたたりBlackwellの判断によって未収録の憂き目を見ている。
 数万枚の限定生産だったジッポライターのジャケットはたちまちレコード店から姿を消したため、『Catch A Fire』はアートワークと名義をMarleyのものに変更して広く知られるようになる。しかし、この時代のThe Wailersというグループは、まかり間違ってもMarleyのバックバンドなどではないことだけは念を押しておくべき事実だろう。