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あれ / It (1927)

 1920年代のアメリカにセンセーションを巻き起こしたElinor Glynの原作をClarence Badgerが映画化し、さらに主演のClara Bowの存在を確固たるものにした秀作。長らくJosef von Sternbergがノンクレジットで関わっていると噂されていたが、Sternberg自身は本作への関わりを後に否定している。上流階級の男性とデパートのいち店員である女性を描いたロマンティック・コメディで、トーキー時代に流行するいわゆるスクリューボールものを予見させる洗練性も見られるが、それらのジャンル映画と比較するとやはり俗っぽいのが実際だ。
 本作を鑑賞するうえでは、〈IT〉と呼ばれる概念を知らねばならない。これはGlynによれば異性を惹きつける人間的魅力であり、それは肉体と精神の両方からくる非常に定義しづらい性質なのだそう。Bow演じるベティは、自分の雇い主でもあるサイラスを〈IT〉で惹きつける。そこへ社会的な立場のギャップや隠し子疑惑といった様々なドタバタの騒動が巻き起こり、誤解を乗り越えて二人は結ばれる。
 後にスキャンダルの宝庫となるBowも、ここでは生意気な美しさとプライドを兼ね備えた見事なヒロインを、時には体当たりで演じている。特に印象に残るのはラストの船の場面で、びしょぬれになりながら抱擁するベティとサイラスのショットのバックには実にオシャレな仕掛けが施されている。
 本作はカメオの面々にも注目だ。Glynが本人役で出演するシーンはもちろん、無名時代のGary Cooperが記者の役で登場する。