Canned Heat – Future Blues (1970)
歴史の波に埋もれかけていた数々の古典ブルースに再び息を吹き込み、Son Houseの戦後キャリアにも多大な貢献をもたらしたギタリストAlan Wilsonは1970年9月3日にこの世を去った。『Future Blues』はWilsonが生前携わった最後のスタジオ作品であり、あらゆるブルース表現の粋を極めた音楽の一大マンダラのようなアルバムだ。バンドにとっても、図らずも転換点を示す一枚となった。
「Sugar Bee」のイントロで雷鳴のようにとどろくハーモニカ、Bob "The Bear" Hiteの爆発的なボーカルには、その後のバンドの悲劇の予感などみじんも感じさせないパワーがある。しかし「My Time Ain't Long」の意味深なタイトルには、うつ病に苦しむWilsonの抑圧されていた感情がにじみ出ているように思わせる。オールドスクールなジャズ・ボーカル「Skat」(洒落たホーン・アレンジとピアノはMac Rebennackが手掛けている)や、4~50年代のJohn Lee Hookerを意識したようなギターで始まる「London Blues」にはブルース愛好家らしい突き詰めた美学が垣間見える。
在籍期間は短かったが、脱退したHenry Vestineの穴を埋めたHarvey Mandelの存在も本作に大きな価値を与えている。Arthur Crudupの名曲を大胆に解釈した「That's All Right, Mama」での、ひずんだギターのサイケデリックな音色などは、まさに彼にしか出しえない真の個性だ。「Let's Work Together」は、ファンキーなサウンドがWilbert Harrisonの原曲よりも受けたおかげでアルバムに先行してヒットし、後のライブの常連曲となった。
『Future Blues』には至るところに作り手としての遊び心がちりばめられているが、それを形にするための実力も最良の形で発揮されている。ブルース・ロックの歴史を見回しても、これほど渋くてイカしたものにはなかなかお目にかかれない。並ぶもののない傑作。