春日八郎 – リサイタル: 泣いて笑って15年 / シンフォニック歌謡 (1966)
『春日八郎リサイタル』は、2020年にキング・レコードから一挙に再発されたアルバム・シリーズの中の一枚だ。レコードとしては二部構成となっているこのコンサートは、春日の歌手活動15周年を記念して開催されたもので、「赤いランプの終列車」や「別れの一本杉」など彼のキャリアを代表する名曲が網羅されている。
往年の曲のメロディとともにアナウンサーの芥川隆行によるナレーションが彼の生い立ちを語る演出は、ファンをいっそう感慨深い気持ちにさせている。レコード版とは打って変わった勇壮なサウンドに乗ってオープニングを飾る「長崎の女」は、長崎らしい外国の情緒と、別れた女性の面影を追い求める慕情が見事に融合した歌だ。歌舞伎の『切られ与三郎』のストーリーをベースに、アメリカ音楽のリズムを大胆に取り入れて社会現象となった「お富さん」ももちろん演っているし、春日自身の筆による「短かったぜ長かった」はこれまでの歌手生活を振り返るにはぴったりのナンバーと言える。
だが本作の目玉はやはりB面の『シンフォニック歌謡』だろう。演歌特有の切ないギター・イントロが印象的だった「雨降る街角」は、流麗なストリングスにアレンジされており、ほとんど別曲のような趣きだ。まさに歌謡史上最高の歌手のスケールにふさわしいサウンドである。