プレゼンテーション・アドバイス(6):発表本番時に守るべきルール
発表までに十分な準備をしてきました.いよいよ発表本番です.ここでは,発表本番で守るべきルールを示します.
<発表のルール>
1) 発表原稿は見ない.もし持つなら工夫する.
2) 発表態度で好印象を与える.
3) 聴衆を見ながら話す.
4) ゆっくりと大きな声で話す.
5) 強調すべきところで強調する.
6) ポインターを振り回さない.
7) 時間を厳守する.
このルールを守るだけで,拍手喝采を浴びるプレゼンにはならないまでも,目的を達成できいるプレゼンに近付きます.ここでも「守破離」を思い出して下さい.まず取り組むべきは「守」です.
それでは,順番に説明します.
発表原稿は見ない・もし持つなら工夫する
修正に修正を重ねて,やっとの思いで完成させる発表原稿ですが,発表本番では使いません.どうしても覚えられなかったら仕方ない(プレゼンしなくていい仕事を探して下さい)のですが,原稿を見ながら発表するのは邪道です.
学会での研究発表でも,修士論文や卒業論文の発表でも,自分で研究したことを自分の言葉で語れないというのは奇妙です.本当にお前がやったのか?という疑問を聴衆が抱いても不思議ではありません.しかも,母国語での発表にもかかわらず,原稿を見るようでは,プレゼンテーション能力の欠如をアピールしているようなものです.
ただし,原稿通りに一字一句間違えずに発表する必要はありません.発表で大切なのは,伝えるべきことを伝えることです.それができるのであれば,細部の言い回しが違っても気にする必要はありません.
どうしても原稿を覚えられないという人は,手に持つ原稿を工夫しましょう.発表中に避けるべき事態は,自分が原稿のどの部分を読んでいるのか分からなくなってしまうことです.大勢の聴衆の前で,沈黙して現在位置を必死に探す行為は,大変な精神的苦痛を伴います.数秒が永遠にも感じられます.そのような事態に陥らないために,スライドごとに原稿を用意する,キーワードを目立たせるなど,自分なりの工夫をしてみましょう.
発表態度で好印象を与える
さて,ここから発表本番です.
まず,見苦しくない服装で発表に臨みましょう.学会発表の場合,ドレスコードは様々で,みんなスーツを着用している学会もあれば,Tシャツにジーンズが普通という学会もあります.参加する学会の流儀に従えばよいですが,ジャケットにしろTシャツにしろ,よれよれだったり清潔感がなかったりすると,好印象を与えることはできません.人は見た目が何割!という主張の妥当性は知りませんが,見た目がイケてる方がよいのは確かでしょう.立ち方も大切です.発表中は,背筋を伸ばして,まっすぐ立ちましょう.
これまでに見てきた多くのプレゼンを踏まえて,悪い態度,普通の態度,良い態度を具体的に示します.意識することで,プレゼン上達に繋がるでしょう.
悪い態度
ポケットに手を突っこんだり,演台に肘をついたり,だらしないと思われるような態度です.こういう態度は無意識に現れるので,自分がどのような態度や話し方をしているかを意識することは簡単ではありません.「え〜」「あの〜」を連発している人の多くは,そのことに気付いていません.もちろん,知らないのは本人だけです.
普通の態度
直立不動.決して悪いわけではありませんが,ぎこちなくて,見ている方が疲れます.身動きせずに,覚えた原稿を暗唱するだけなら,録音した音声を流すのと大してかわりません.
良い態度
意味ある身振りや手振りを交えること.間を取ること.これらが重要です.その場(演台があるところ)から動いてはいけないというルールはありません.とても大きな会場で固定マイクでしか声が届かないなら,演台から身動きできません.しかし,たかだか100人くらいの会場なら,マイクなしでも声は届きます.逆に,それで声が届かないなら,発声練習をすることも考えてみて下さい.スライド操作ができるレーザーポインターもたくさんあります.これを使えば,パソコンの近くにいる必要はありません.コンサートでステージ上を動き回るミュージシャンまで行くとやり過ぎな気はしますが,ある程度の動きはあっていいでしょう.決められた場から動かないにしても,その場で意味ある身振りや手振りは交えたほうがいいでしょう.あなたが主役なのですから,直立不動は感心しません.
聴衆を見ながら話す
良い態度で発表できるようになると,次にすべきは聴衆を見ながら話すことです.いわゆる,アイコンタクトと言われるものです.プレゼンを聞いてくれる一人一人の顔を順番に見回すぐらいの余裕を持って発表ができるようになりましょう.そこまでできなくても,最低限,聴衆の方を向いて発表しなければなりません.決して,スクリーンに向かって黙々と話し続けてはいけません.体の正面を聴衆に向けて話しましょう.スクリーンに向かって話してはいけません.
ゆっくりと大きな声で話す
発表本番は大変緊張するので,どうしても早口になりがちです.練習の時から,ゆっくりと大きな声で話すように心掛けましょう.聞いてくれている人に理解してもらえなければ,その発表は無意味です.理解してもらうためには,見易いスライドを用いて,懇切丁寧に説明するしかありません.ボソボソと呟くなんて論外です.
強調すべきところで強調する
ゆっくりと大きな声で話せるようになったら,単調な発表にならないように注意してみましょう.発表の間ずっと同じ調子で話すと,聞いている方は,どこが重要なのか分からず,眠くなってしまいます.どうしても伝えたい重要な部分はしっかり強調しましょう.より大きな声で話してもいいですし,その前後で間を取るのもいいでしょう.
間を取るのは非常に大切です.聞かせるプレゼンのために必要なのは沈黙です.例えば,「〜でしょうか?」という発問でプレゼンを進める場合,間がないといけません.「〜でしょうか?」と尋ねたら,何も言わず,ゆっくりと,前方の左,中央,右,後方の右,中央,左を見渡しましょう.一人一人の顔を識別できるくらいに,ゆっくりと.聴衆の反応を観察しながら,少なくとも5秒間は黙るべきです.
以前,長女が通う幼稚園のリズム発表会に参加しました.400人を収容できる立派なホールを借りて行われる本格的な発表会です.そこで年長さんの演し物(紙芝居)があり,頑張って描いた絵を見せながら「これは何の絵でしょうか?○○の絵だと思う人は手を挙げて下さい」と言います.そして間髪入れずに「ちがいま〜す.□□の絵です!」と言うので,会場からは笑い声が漏れていました.実に可愛らしかったですが,これが微笑ましいのは幼稚園児がしているからであって,大学生や社会人がやったら無能です.
黙るというのは,かなりレベルが高いテクニックです.プレゼン初心者は沈黙の恐怖に負けてしまいがちです.そのため,早口で休む間もなく,まくしたてます.でも,それだけに沈黙には効果があります.自信が感じられます.
ポインターを振り回さない
ポインターはスライドを使うプレゼンの必須アイテムですが,うまく使えているでしょうか.しっかり練習して,適切なタイミングで,適切な場所を指せるようにしましょう.
ポインターは使い続けるものではありません.図や表で注目して欲しい箇所を指し示すのに活用しますが,いつもスクリーンをビーム攻撃している必要はないのです.というか,そんなことをしてはいけません.プレゼンテーションで大切なのは,聴衆に向かって話すことです.ポインターを使うのは,必要なときのみです.
たまにポインターを振り回す人を見かけますが,最悪です.また,スライド中の文章を読む際に,ポインターで文章を追う人がいますが,そんなことをする必要はありません.目障りです.
先に触れましたが,スライド送り機能を備えたレーザーポインターは必須アイテムです.なお,プレゼン本番に先立ち,ポインターのバッテリーを充電しておきましょう.電池なら新しいものに交換しておくか,あるいは予備を手元に置いておきましょう.
時間を厳守する
学会発表や講演の持ち時間は事前に決まっているはずです.例えば,学会発表の場合,発表時間15分と質疑応答時間5分の合計20分というように決められています.指定された発表時間は厳守しましょう.ルールを守るというのは,発表の善し悪し以前に,最低限の条件です.発表原稿を用意しない人は,時間配分に計画性がなく,発表時間を守れない傾向があります.このため,くだらない前置きをダラダラと話し,肝心な部分についてはサッと流すという本末転倒な発表になりがちです.そのような愚を犯してはいけません.
学会などでは,自分が発表するセッションの開始に先立ち,プレゼンテーション用ファイルを会場に備え付けられたコンピュータにアップロードするように指示されることがあります.こういう指示にも確実に従いましょう.最低限のマナーです.
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