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てんかん患者さんのパラドックス

母国である日本に戻ってみて、医療制度に対して不満ばかり感じるのは、私だけかもしれません。
しかし、「そんな愚痴を言っても仕方ない!」と家内に言われ、何度も考え直してみても、どこか違和感を拭いきれません。
特に、てんかん症候群の患者さんが日本では完全に社会的弱者として扱われている現状を見ると、現場に対して不満を口にしてしまうのも仕方のないことだと思います。
海外では「「てんかん患者さん」をPWEと呼びます。POW(捕虜)と似ていますが、People With Epilepsyの3文字で意味は「てんかんと寄り添って生きる人」と尊厳をもって称しています。
日本でも誰かが声を上げなければ、何も変わらないのではないでしょうか。

政府は「医療DX」と称し、マイナ保険証やEHRなどのプラットフォーム構想を国内大手ベンダーに発注しているようです。しかし、地方DXのように、結局は実用性に乏しいシステムが完成することを承知の上で進めているのではないでしょうか。錦の御旗を振りかざして進行しているように見えますが、これは大手ベンダーへのセーフティネットを提供する意図以外に何があるのでしょうか。

では、今日の本題であるパラドックスについて、多くの人が感じているものの、具体的な言葉にできていない現実を、私なりに描写してみました。ご覧いただければ幸いです。

日本における「てんかん患者」の日常生活に潜むパラドックス

日本では、てんかん患者が抱える課題は、医療的な側面だけでなく、社会的・文化的な要因による複雑なパラドックスに直面しています。てんかんは脳の病気として医学的には広く理解されていますが、社会ではまだ偏見や誤解が根強く残っているため、患者が日常生活で直面する困難は多岐にわたります。

例えば、てんかん患者は適切な治療を受け、発作をコントロールできれば、多くの場合、健康な人とほぼ同じように生活できます。しかし、てんかんであることを告げると、職場や学校での差別や不安が生じることを恐れ、病気を隠さざるを得ない場合があります。この結果、患者は適切な支援を受けられないまま、孤立感やストレスに苦しむことがあります。この「隠さなければならない」という状況は、患者が安心して社会で活躍することを難しくするパラドックスの一例です。

また、運転免許の取得制限もまた大きなジレンマです。発作が一定期間コントロールされている場合は免許取得が可能ですが、発作の可能性が完全には排除できないため、常に監視下に置かれるような感覚を抱く患者も少なくありません。一方で、公共交通機関を使う生活を強いられる場合には、地方での移動が困難になるなど、生活の質が低下する可能性があります。

さらに、就職活動においても「てんかん」であることを申告すべきか悩むケースが多く見られます。法律では差別が禁止されていますが、実際には採用に影響が出る可能性を懸念し、病気を隠してしまうことがあります。その結果、必要な配慮を得られず、職場でのトラブルや体調悪化を招くリスクもあります。

このように、日本のてんかん患者は、医療の進歩による生活の質の向上と、社会的な偏見や誤解の間に挟まれたパラドックスに苦しんでいます。患者が安心して生活できる社会を築くためには、病気への理解を広める啓発活動と、社会全体での偏見解消に向けた取り組みが不可欠です。

病院の担当医との関係における「てんかん患者」のパラドックス

てんかん患者にとって、病院の担当医との関係は治療の鍵となります。しかし、その関係には患者が直面する特有のパラドックスが存在します。

一つの例として、てんかん治療は継続的な管理が必要であり、患者は同じ担当医に長期間通院することが望ましいとされています。担当医の経験や患者の病歴の理解が深まることで、より適切な治療方針が得られるからです。しかし、この「長期間同じ医師にかかる」という前提が、医師と患者の関係に不安をもたらす場合もあります。特に、患者が医師の説明を十分に理解できなかったり、医師の態度に不信感を抱いた場合でも、他の選択肢を見つけるのが難しい場合があるからです。

さらに、医師は限られた診察時間の中で多くの患者を診なければならず、患者が抱える日常生活の悩みや精神的な負担に十分に耳を傾けることが難しいことがあります。患者は自分の病気や治療について詳しく知りたいと思う一方で、質問や相談をしすぎることで「面倒な患者」と思われるのではないかと不安を感じることもあります。この結果、患者は必要な情報を得られず、治療に対する主体的な関与を諦めてしまうことがあります。

また、てんかんは症状が多様であり、発作のタイプや頻度が患者ごとに異なります。そのため、担当医が一般的なガイドラインに基づいて治療を進めても、必ずしも患者の生活に即した最適な結果が得られるとは限りません。このような場合、患者は医師の判断に従うべきか、それとも自分の経験に基づいて意見を述べるべきかで迷い、治療方針について対立が生じる可能性があります。

さらに、患者がセカンドオピニオンを求める際にもパラドックスが存在します。セカンドオピニオンは患者の権利であり、自分の病状や治療についてより広い視野を得るために重要です。しかし、日本ではセカンドオピニオンを求める行為が担当医との信頼関係を損なうのではないかという懸念があり、患者がそれをためらうケースが少なくありません。このため、適切な治療の選択肢が狭まり、患者が不安を抱えたまま治療を続けざるを得ない状況が生まれることがあります。

このように、病院の担当医との関係には、患者にとって治療の基盤であると同時に、信頼の維持や情報の共有をめぐるジレンマが存在します。患者が安心して治療に専念できる環境を整えるためには、医師と患者の双方向のコミュニケーションを促進し、選択肢や意見を自由に共有できる関係性を築くことが重要です。

「発作」と「抗てんかん薬の副作用」の選択におけるパラドックス

てんかん患者が直面する大きな課題の一つに、「発作のリスク」と「抗てんかん薬の副作用」の間での選択があります。この選択は、患者の日常生活や治療方針に深い影響を与えるため、非常に複雑なパラドックスを生じさせます。

抗てんかん薬は、発作の頻度や重症度を抑えるために欠かせない治療法です。しかし、これらの薬には眠気、倦怠感、注意力低下、体重増加、さらには精神的な影響(例えば、うつ症状やイライラ感)などの副作用が伴うことがあります。一部の患者にとって、副作用は日常生活や仕事、学業に支障をきたすほど深刻で、薬の服用そのものが生活の質を大きく低下させる原因となることもあります。

一方で、薬を減量したり、服用を中止したりすれば、発作のリスクが高まる可能性があります。発作は意識を失うことや転倒などの身体的な危険を伴い、場合によっては命に関わることもあります。そのため、発作を防ぐために薬を飲むべきだという考えが一般的ですが、副作用によって患者が感じる苦痛や制限も無視できません。

この「発作のリスクを取るのか、副作用を受け入れるのか」という選択は、患者にとって難しいジレンマです。特に、副作用が患者の生活の質や社会的活動に重大な影響を及ぼしている場合、その選択はさらに困難になります。例えば、仕事や学校で集中力が求められる場面で、薬の影響による注意力の低下が支障をきたすことが多々あります。それでも発作のリスクを避けるために薬を続けるべきかどうかは、患者ごとに異なる状況や価値観によって異なります。

また、患者が医師に相談しても、治療の調整には時間がかかる場合があります。薬の種類や量を変える際には発作が再発する可能性があるため、慎重な対応が必要です。このプロセスにおいて、患者が自分の意思や希望を伝えつつ、医師とともに最適な治療方針を模索することが求められますが、その過程自体が精神的な負担になることも少なくありません。

結局のところ、このパラドックスは患者に対して「どちらを選んでも完璧な解決策にはなりにくい」という現実を突きつけます。このため、患者にとって最も重要なのは、自分の生活や価値観に合った治療バランスを見つけることです。医師との密なコミュニケーションや、家族・周囲のサポートがこの困難を乗り越えるための大きな助けとなります。

Be mind for you=医療関係者への啓蒙資料

てんかん患者が直面するパラドックスに対して、患者自身が解決策を見出すためのアドバイスをいくつか挙げてみます

  1. 発作と薬の副作用のバランスを取る
    発作のリスクと薬の副作用との間で悩む場合、まずは医師と積極的にコミュニケーションを取ることが大切です。自分が感じている副作用を詳細に伝え、それがどれだけ生活に影響を与えているかを共有しましょう。その上で、治療法を変更する、薬の種類や服用量を調整することが可能か相談することが重要です。場合によっては、薬の副作用が軽減できる別の治療法があるかもしれません。

  2. 医師との信頼関係を築く
    担当医との関係において不安を感じる場合、診察の前に自分の考えや心配事を整理しておくと良いでしょう。質問や不明点をリストアップし、医師に説明を求めることで、より納得のいく治療方針を選ぶ手助けになります。また、セカンドオピニオンを求めることは、患者の権利として大切な手段です。自分にとって最適な治療を受けるために、躊躇せずに相談することが重要です。

  3. 社会的な偏見や不安に立ち向かう
    てんかん患者として社会的な偏見を感じることがあるかもしれませんが、まずは自分の病気に対する理解を深め、周囲に説明することが大切です。病気に関する誤解や偏見をなくすためには、患者自身が積極的に情報を発信していく必要があります。また、患者同士のサポートグループや支援団体に参加することで、共感し合い、助け合うことができます。社会的な孤立感を減らし、より充実した生活を送るために、周囲との協力関係を築くことが重要です。

  4. 精神的なサポートを求める
    てんかん患者は、病気による不安やストレスを抱えることが多いため、精神的なサポートを求めることも解決策の一つです。カウンセリングや心理的な支援を受けることで、病気への理解を深めるとともに、精神的な負担を軽減することができます。また、家族や友人に自分の状況を理解してもらい、支援を受けることも大きな助けになります。

  5. 生活の質を向上させる
    日常生活における工夫も、患者自身ができる解決策の一つです。例えば、発作を引き起こす可能性のある triggers(ストレスや睡眠不足など)を避けることや、規則正しい生活を心がけることが有効です。自分の体調に合わせた生活習慣を作り、生活の質を高めることで、より健康的で充実した日々を送ることができます。

以上

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