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てんかん発作後のPTSD類似症状の発現

一昨夜と昨夜、米国の「てんかん患者団体」とビデオ会議を行いました。ちょうど大統領選挙の真っ最中という時期でしたが、患者の皆さんは、米国の健康保険制度におけるてんかん治療の適応拡大の行方に注目している様子でした。

私の主な目的は、米国で治療を受けている患者さんたちの生の声を聴くことでした。初診から治療までの具体的な診断や治療方法についての話を期待していましたが、実際には、発作後の精神的症状や日常生活での自信喪失など、主に精神的QOL(生活の質)の悪化に関する悩みが多く寄せられました。

ビデオ会議の参加者は主に18歳から45歳までの女性で、全体の8割を占めていました。彼女たちの率直な声を聴くことで、今後のInsightXの仕様決定で治療やサポート体制の改善に役立てたいと考えています。

初めてのてんかん発作が与える精神的な苦痛

会議の中でも一番重要だと思ったのは、てんかんを「自分には無関係」と感じていた患者さんが診断を受けて自分の病気だと知ったとき、「余命宣告」受けた時と同様に精神的に大きな衝撃を受け将来への不安、社会的なスティグマに直面します。
具体的には

  1. 拒絶感と混乱: 初期には「なぜ自分が?」という疑問や怒り、混乱が生じやすいです。

  2. 不安と恐れ: 発作の再発や制限(運転、仕事)への不安が増します。

  3. 自己認識の変化: 健康に対する見方が変わり、自己価値感の低下に繋がることもあります。特に仕事や家庭での生活の質への懸念が強まります。
    特に家族への負担感や、社会的役割の変化に対する不安が増える傾向があります。

私自身も、2019年に胃がんと診断され、余命6カ月と宣告されました。そのとき、自己効力感の喪失は大きな課題でした。
しかし、精密検査の段階から最悪のシナリオを無意識に想定していたため、残された時間を家族や仕事のためにどう使うかに集中していました。
そのため、余計なことを考える余裕はほとんどありませんでしたが、それでも、運転中の信号待ちなどの何気ない瞬間に「どうしようかな」と漠然と思うことは何度もありました。

このように、医療関係者が余命宣告を受けると、他の患者と同様にショックや不安を感じますが、自分の病気や治療の詳細を深く理解しているため、特有の心理的負担を抱えることに・・。
一方で、限られた時間をどう有効に使うか、自分の経験を他の患者や家族のサポートに活かすなど、独自の視点で前向きに捉えても、医療者だからこその孤独感も正直ありました。(笑)

初めての「てんかん発作」が与える精神的な影響(年代別)

初めてのてんかん発作がもたらす精神的影響について、会議メンバーからの聴取で明らかになったこと。

1. 10代

若年層では、発作が自己イメージや友人関係に大きな影響を与えることがあります。学校での差別、誤解やいじめの懸念が増え、不安感や孤立感を感じやすくなっているようです。

2. 20~30代

成人初期は、発作が進路、キャリアや独立に対する不安を引き起こすことがあります。特に運転制限や就職への影響が懸念され、自己効力感の低下や抑うつ症状が現れることもあります。

3. 40代以上

中高年層では、健康や将来の生活の質への懸念が強まります。特に家族への負担感や、社会的役割の変化に対する不安が増える傾向があります。


また、脳腫瘍、事故による外傷▶オペレーション(手術)▶リハビリ▶発作発現のケースの方が6名の方から重要なお話を聴く事が出来ましたので簡単ですがご報告と私的感想を記させていただきます。

1.事故など外的要因で頭部外傷を負った方のお話です。


事故当初は恐怖が何度も蘇り、外出すらできない状況だったそうです。しかし、時間が経つにつれてその記憶は薄れていきました。初めてのてんかん発作が起きたのは、リハビリを終えて復学した初日。階段を上っている途中で突然、視界に黒い点が現れ、直後にけいれんを起こして転倒。右腕を骨折し救急搬送されました。退院時、てんかんの兆候がなかったため、担当医も私も貧血が原因と考え、通常の生活に戻ったのです。

しかし、その1か月後、校内で再び発作を起こして転倒。その場で5分ほどで意識は戻ったものの、周囲の友人の驚きと恐怖の表情に圧倒され、その場を離れました。その後、薬物治療で発作は収まりましたが、友人との距離が生まれ、孤独感に苛まれる日々が続きました。
特に友人と何かしようと提案しても、「体大丈夫?」と心配心から質問される時の疎外感は堪りません。

その後、事故時の病院に通院するようになり、薬物治療の効果もあり、発作はありませんが友人達とも疎遠になり孤独感を味わっています。「なにか今までの自分がどこかへ消えさって、モンスターになったようで、この孤独感と喪失感で未来など考えることが出来ない時期が6カ月程続いたそうです。
(19歳女性、患者会入会後3カ月)

2.グリオーマのオペを2回、その後てんかん発作発現


2020年と2021年にグリオーマの手術を2回受けました。乏突起膠細胞系腫瘍だったため、術前に担当医から「てんかん発作が7割の確率で起こる」と言われていましたが、実際の発作が家族に与えた恐怖や無力感は想像以上に大きかったようです。

まだ手のかかる就学児童が2人います。以前は送り迎えをしていましたが、発作の不安から今は友人や親族に頼らざるを得ません。夫も有給休暇を取って家事を助けてくれますが、治療費などの経済的負担も重なり、家族全員が疲弊し、家庭は崩壊寸前です。

とにかく、発作がいつ襲ってくるかが最大の恐怖です。わずかな震えでも体が硬直し、現在は精神科でSSRIを処方されています。

脳外の先生方は重篤で高額レセプト収益患者さんのお相手で多忙でなかなかアポが取れず、診察も10分程で「そうですか・・・。オペ自体は成功したので・・・。お大事に・・・」という対応で、正直、感謝の気持ちはいつしか怒りへと変わってしまいました。

一方精神科の先生方は不安やな悩みの話は聞いて頂けていますが、根本的な治療の話になると曖昧なままです。薬の量が増えるばかりで、1年後の自分や家族の姿を想像するのも不安でなりません。

以上が聴取で気になったケースです。
いずれも発作への恐怖心はPTSD症状と類似しています。

発作後の心身的な変化

てんかん発作後にPTSDのような症状が現れる原因は、複数の心理的・生理的要因に関連していますね。てんかん患者さんが経験する「発作後のPTSD症状」は、恐怖や不安が再燃するだけでなく、フラッシュバック、過覚醒、悪夢などを伴うことがあり、これには以下のような要因が関係しているような気がしてなりません。

1. 発作そのものがトラウマ的経験となる

てんかん発作は、本人にとって予測不可能で恐怖感を引き起こす体験です。特に強い発作や、意識を失うタイプの発作では、覚醒した際に混乱や強い不安感を覚えることがあります。このようなトラウマ的な体験は、PTSDのような症状を引き起こすことがあります​。Epilepsy Foundation Australia

2. 発作に対する「予期不安」

てんかん患者さんは、発作がいつ発生するかわからないために、発作に対する恐怖や不安を持つことが多く、これがPTSDに似た状態を引き起こすように思えます。この「予期不安」によって、日常生活でも過度な緊張や不安感が続くことがあります。発作の予兆が感じられる場合、それがさらにストレスの増大に繋がることもあります。

3. 発作後の神経化学的変化

てんかん発作は、脳内の神経伝達物質に一時的な変化を引き起こし、脳がストレスや恐怖に対して敏感になる場合があります。このような変化が、不安や恐怖を持続させる原因となることが知られています。特に、脳内のストレスホルモンやGABAのような神経伝達物質の異常が、PTSD様の症状に関係している可能性があります。​National Organization for Rare Disorders

4. 社会的・心理的ストレスの影響

てんかんを持つことで、社会的な孤立感や周囲からの理解不足、生活上の制約など、心理的ストレスが加わることがあります。これらのストレス要因も、発作後の心理的苦痛を強め、PTSDのような症状を助長する原因となります。

5. 発作後の混乱状態と「再体験」現象

意識を失うタイプの発作や、感覚が変化する発作は、患者にとって再体験のような感覚を引き起こす場合があります。これは、発作の恐怖を繰り返し体験するように感じさせるもので、PTSDに特徴的な「フラッシュバック」と類似しています。

対策とサポート

てんかん患者さんがPTSD様の症状に対処するためには、心理療法(認知行動療法など)や、てんかん専門医のサポートが有用です。また、患者に発作を予期できる方法を教えることで、予期不安の軽減や、自己管理の感覚を高めることも効果的です。

外科手術後の発作に関する問題は、執刀医と精神科医の間で事前に情報共有を行い、脳への影響をいかに低侵襲に抑えるかを協議することが重要です。患者のQOLを最大限に保つためには、多職種間の連携が欠かせないでしょう。

また発作予知が可能な仕組みも日常生活を快適にするには必須だと強く感じました。てんかん発作と心理的な影響についての理解は、患者のQOL(生活の質)を向上させるために専門医も含めて検討する機会を作っていきます。


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