「野菜を知る」
このマガジンは、doyoubiとしてマフィンを作る私が各地を訪ねて出会った野菜と、それを作る人との対話から感じたこと。
それを経て現地で焼いた、あるいは鎌倉に戻って焼いたマフィンについての記録です。
タイトルを「野菜を知る」としたのには2つの意味があり、ひとつは、未だ見たことのない知らない野菜が日本全国にあり、それをマフィンにして紹介していきたいという気持ちから。
紹介するなんていうとおこがましいですが、要は私が「知らない食べ物に出会いたい、食べてみたい」という純粋な好奇心を、どなたかにもお裾分けできたら楽しいのではないかという動機です。
そしてもうひとつは、わたし自身がまだまだ何も知らないなという気持ちから。
東京で生まれ育ち、マフィンを焼き始めて5年。鎌倉に移って1年になりますが、東京にいた頃は「野菜」について考えることがほとんどありませんでした。
当時住んでいた西荻窪にも八百屋さんはあったけれど、メインで野菜を買うのは大手スーパー。
なすなら「なす」、きゅうりなら「きゅうり」、見慣れた顔の野菜を、作りたい料理やマフィンの材料として淡々とカゴに入れていくだけでした。
真夏でもにんじんを使ってキャロットケーキを焼いていましたし、トマトやきゅうりを、多少値が上がったなと思いながら冬にも買う。
旬というものを意識してはいたものの、それはマフィンをPRするための表面的な情報として、だったように思います。
鎌倉に来て、野菜の姿がとても正直に見えました。
駅前に地域の農家さんが野菜を持ち寄る市場があるのですが、
引っ越した当初(1月)はいつ行っても大根と見慣れない葉野菜しか並んでいず、これをどうマフィンにすればいいんだ…と途方に暮れたのを覚えています。
そこから店を始め、春夏秋と季節を過ごしながら日々市場に通ううち、気づいたのは、これが自然な形なのだということ。
野菜の旬はじつは短くて、市場に並ぶ野菜の顔ぶれも週単位で変わっていきます。
中にはささげ、ゼブラなす、スベリヒユ、スイスチャードに四角豆など、ここに来て初めて知った野菜も多く、私がこれまでの人生で食べてきた野菜はほんのひと握りだったことを知りました。
そんな中で「焼きたいメニューに合わせて野菜を買う」これまでの形から、「出会った野菜に合わせてマフィンを考える」形へと、作り方も自然と変わっていき、
そんな旬の野菜との巡り合わせを題材にしてマフィンを焼くことで、これまで以上にマフィン作りが楽しくなっていきました。
マフィンはカジュアルな食べ物です。老若男女、誰にでも手にしやすい。
レストランに行かなければ食べられない料理では、なかなか口にするハードルは高いですが、マフィンならひとつから、明日の朝ごはんに、おやつや夜のおつまみに、気軽に試してもらえる。
そんなマフィンにさまざまな野菜をのせて届けていくことに、私なりに意味を感じています。
そんなわけで「知りたい」という動機から始めた産地巡り。
けれど実際に足を踏み入れてみると、地域の伝承野菜のこと、有機野菜のこと、自然農法のこと。まだまだ知らないことばかりだと痛感しています。
そんな勉強途上の自分が何を書けるだろう、と考えて、このマガジンではあえて知ったふうな情報は書かないことにしました。
例えばその農家さんがどんな活動をしていて、何がすごい部分で、背景にどんな社会問題、環境問題があるのか。そんな詳しい説明は、このコラムでは最低限しか書きません。
農家さんというより「人」として、その方に出会った率直な感想。その場で交わされた会話や、野菜を食べて感じたこと。そしてそんな旅の思い出をまとめて作ったマフィン。
シンプルにその記録を綴っていきたいと思います。
書かれる内容は断片的で、情報としては不十分かもしれません。なので取り上げる野菜や作り手の方に興味を持っていただけたら、個人でより深く調べていただけたら嬉しいですし、実際に野菜を手にしてみたいと思っていただけたら、なおのこと嬉しいです。
知らないことばかりの私が書くので、あまり難しい情報はありません。同じく知らない方でも読みやすいものを意識するので、同じ目線で、肩の力を抜いて気軽に読んでいただけたらと思っています。
そして何より、食べてみたいと思っていただけたら。食材を知るきっかけに、マフィンがなれたらと願います。