見出し画像

2020年 
2年B組 百舌鳥 実

 いきなりですが、世界は滅びました。
 今残っているのはここ、架空ヶ崎高校(以下、架高)の校舎のみとなります。
 ここに至るまでに色々なことがありました。三國劉みくに・りゅうの暴行事件。生徒の集団失踪。校内で頻発する怪奇現象からの怪異生物ペニス男の出現に伴う虐殺事件。謎の瘴気ウラヌスガスによる淫売術式の完成からの校内大乱交。異形の権能が發顕した生徒間による戦闘行為。
 わたし、百舌鳥実もず・みのりは友人の四季島小百合しきしま・こゆりと共にこの不可解な一連の事態の原因究明に乗り出しました。
 その過程で架空ヶ崎校内円卓機構KSROの所属を名乗る福ゐ潤ふくい・じゅんに出会い、学校の“裏”の存在を知りました。“開校”以来、架高の校舎が差異を持って反復生成されてきた、広大にして窮屈な迷宮。校則という理に、教本という法に、時間割という預言で縛られた世界。
 その中で世界の趨勢を決める陰謀が渦巻いていました。
 表側から漂流した静止者と裏側に住む異能者間の紛争や、怪異生物の脅威に怯えながら暮らしている裏校舎の難民生徒達の存在を表側に公表し、悲劇に終止符を打とうとした福ゐ潤。外淵からもたらされた異能を信奉し、異能を持たない漂流生徒と表の人間を嫌悪し表側の全ての駆逐を目指した我天乃童子公威がてんのどうじ・きみたけ。壊校によって、世界の楔である架空ヶ崎高校の存在を抹消することによって表裏を切り離そうと試みた夜ノ空星よるのそらほしキラリ。外淵と奈落を繋げて究極の循環世界を作り解脱を目指すことで実質的に裏界を消そうとした南無ナム。濃縮ウラヌス核による変異を極めて不滅人像化し、化外の地に立つ外なる神として架高を見えざる手の内に収め、調停することを提案した三國劉。全ての存続を望んだ校長。そして、普通の日常を求めたわたしたち。
 それぞれが各々の結末を希求した結果、全員にとって不本意な形で終わることになりました。
 まず、外淵と奈落が南無によって接続されました。その直前にキラリがもたらした333の静止者と333の異能者の精神を崩壊させ、その際に起きる魂魄燃焼によって発せられる破壊的なエネルギー=壊校が循環を起こすこととなりました。それによって裏側の人間は完全に死滅しました。また、死亡直前の我天乃童子により強引に境界が開かれたため、崩壊は表側にも迫りました。そして表側も滅びました。
 世界は完全にこの学校だけになりました。校門の外は漆黒に覆われて存在しないものとわかります。
 その世界にただ二人、静止した存在として生きていかねばなりません。外の奈落に足を踏み入れたが最後、わたしもこれまで消え去ったものと同じくこの世に一片の痕跡を残さず死ぬこととなるでしょう。わたしたち二人はどちらかが消えることを恐れながら互いを監視し合って生活しています。
 再び世界が成ることを祈りながら。
 
 今、最後の友達と一緒にいます。私は幸せでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?