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重川俊
2020年9月21日 21:51
雨が、降っている。 しんしんと降り注ぐ雨は空気の抵抗を押し退け、夜の路地に張った水面に弾けて飛沫を振り撒き、大小様々な円を描いていく。 雨は規則正しく、不変のまま景観を形作っていた。 その時、一際大きな波紋が飛沫を上げ広がった。水面を長靴が踏み抜いたのだ。水柱が打ち立てられる。 それは漆黒の装衣に身を包んだ男だった。硬質な輝きを帯びた防弾ベストの上からフードのついた琺瑯加工の外套を羽織り