【決定版】正しい糖質制限食の取り入れ方①(指導者向け)

近年、「糖質制限」という言葉が、医療業界、フィットネス業界、並びに体組成や美容、健康の向上を願う人々の間に浸透しつつあります。実際に、筆者がクライアントを指導する際にも、また自分自身の健康づくりにおいても糖質制限食が高い成果を上げてくれていますが、未だ「糖質制限」には、明確な定義がなく、その方法論も提唱者により様々であることも事実です。また、「糖質制限」そのものを反対とする医師やトレーナー、栄養士も多くおり、その正当性、並びに利点と不利点を、複数回に渡り、エビデンスに基づき考察していきたいと思います。

様々な糖質制限食と生理的ケトーシス

「糖質制限」と名の付く方法論は世の中に数多く存在します。古くは「アトキンスダイエット」から「BODY OPUS」「バーンスタイン式ローカーボ・ダイエット」などです。また、これら三つのように、正式な名称を持たずとも、様々な理論や自称エビデンスに基づいた糖質制限食法は、挙げだせばきりがないでしょう。まず、これらの方法論は「生理的ケトーシスに誘導するかどうか」で、まず大別することができます。すなわちそれは、提唱者がケトン体の安全性についてどのように捉えるか、またそのような視点を持つのか、ということになります。前述の3点の糖質制限法を引き合いにだすと、アトキンスダイエットでは、導入期からケトーシスを狙うための栄養バランスを提唱し、糖質の摂取量は1食につき20g未満としています。BODY OPUSでは、迅速にケトーシスに移行すべく、ウエイト器具によるワークアウトの適切なタイミングやボリュームの指南を行っています。しかし、バーンスタイン式ローカーボ・ダイエットでは、炭水化物の摂取量を、1食あたり43g以下で、1日130g以下に設定することが大枠のルールであり、決してケトーシスを狙うものではありません。

ケトン体、それは敵か味方か

「ケトン体」という言葉を聞くと、糖尿病ケトアシドーシスを連想し、マイナスイメージを持つ医療関係者は多いですが、糖尿病ケトアシドーシスと、糖質制限食により誘導される生理的ケトーシスとは全く異なる代謝状態であることをまず初めに主張しておきます。糖尿病ケトアシドーシスの発症機序には、「インスリン作用の欠乏」が前提にあり、それにより、糖質、脂質、たんぱく質代謝の異常、並びに糖利用の低下、脂肪分解の亢進による高血糖と高遊離脂肪酸血症を生じることが背景にあります。しかし、糖質制限食によって誘導されるケトーシス(体内のケトン体量が増加した状態)の機序とは、糖質摂取を制限し、同時に脂肪酸摂取量を増加させることにより、オキザロ酢酸の欠乏と、脂肪酸由来のアセチルCoAを増加させることを起点としています。増加したアセチルCoAは、オキザロ酢酸の欠乏により、TCAサイクルに入ることができず、余ることとなり、余ったアセチルCoAはその後、ケトン体(アセト酢酸)に変換され、肝細胞から血液に乗り、末梢組織へ運ばれます。末梢組織に運ばれたケトン体(アセト酢酸)は、スクシニルCoAトランスフェラーゼにより、アセチルCoAとコハク酸に変換され、コハク酸がオキザロ酢酸となり、TCAサイクルは回ることとなります。これら一連の栄養代謝により、血中ケトン体濃度が上昇し、生理的ケトーシスへと誘導されるのです。こむずかしく話しましたが、ケトン体そのものは確かに酸性物質ではあるものの、だからといって「身体が酸性になって危険だ」という話はあまりに一面的な主張であり、非糖尿病者の生理的ケトーシスが危険な症状となりうる可能性とはいかほどなのでしょうか。

ケトン体の安全性

糖質制限を推奨することで知られる宗田哲男医師らが2016年に発表した研究では、


* 胎盤のケトン体値は基準値の20~30倍、 平均2235.0μmol/L(60検体)
* 臍帯のケトン体値は基準値の数倍~10倍、平均779.2μmol/L(60検体)
* 新生児の血中ケトン体値は、基準値の3倍~数倍、平均240.4μmol/L(312例、生後4日)
※基準値は85 μmol/L以下

となっており(※1)、赤ちゃんの体内には、大量のケトン体が巡っていることを示しています。この時点でケトン体の安全性については、論を俟たないといっても過言はありませんが、もう少し安全性について検証してみましょう。

人体のエネルギーソースは糖質よりケトン体

人間が生きていくにはエネルギーが必要なわけですが、そのエネルギーとは、糖と脂肪(脂質)です。しかし、脂肪は血液脳関門を通ることができません。つまり、脳は脂肪をエネルギーとしてりようすることができないということです。しかし、例えば夜ご飯を一回抜いて寝たからと言って、翌朝、脳は停止するでしょうか。そのようなことが起きないのは、後ほど説明する糖新生と、ケトン体の作用です。ケトン体は、血液脳関門を通ることもできます。そして、近年ではこのケトン体の脳への有益な作用が多く見つかっています。

ケトン体で脳機能が向上する

近年、ケトン体が高齢者の認知機能を改善したり(※2)、アルツハイマーを改善する(※3)ことがわかってきており、ケトン体に変改されやすい脂肪酸を多く含んだココナッツオイルが流行したりしています。挙げだせばキリがありませんが、これらの理由から、ケトン体は危険どころか、多くの健康増進効果をもたらしてくれます。次回以降は、本題となる「どのように糖質制限を取り入れればケトン体を効率よく増やすことができるのか」について説明していきます。

※1)Ketone body elevation in placenta, umbilical cord,newborn and mother in normal delivery  Glycative Stress Research 2016; 3 (3): 133-140Tetsuo Muneta 1), Eri Kawaguchi 1), Yasushi Nagai 2), Momoyo Matsumoto 2), Koji Ebe 3),Hiroko Watanabe 4), Hiroshi Bando 5)
※2)Effect of a ketogenic meal on cognitive function in elderly adults : potential for cognitive enhancement
※3)3-Hydroxybutyrate methyl ester as a potential drug against Alzheimer's disease via mitochondria protection mechanism.Biomaterials. 2013 Oct;34(30):7552-62.

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