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防災庁の設置に向け、真の「災害予防」のための災害対策基本法の見直しを

1.災害に関連する多くの法制度、法律を体系化しようとしている『災害法』(大橋 編、2022年、有斐閣)では、現行の災害対策基本法における「災害予防」とは、災害の発生そのものを予め防ごうとするのではなく、災害による「被害」の発生や拡大を抑制するための機材、組織、教育などの事前準備を進めるというものとなっている。この点は、災害対策基本法の「災害の予防」の定義をみると確かにそうなっている。

2.しかし、2021年7月の静岡県熱海市で生じた土砂災害も、直接原因は自然現象としての豪雨であったとは言え、この土砂災害発生の前提として違法・不適切な盛土があったことが確認されている。このような違法・不適切な土地や構築物が存在しないようにすること、そして新に生み出されないようにすることが「災害予防」なのではなかろうか。

3.熱海市の盛土事案を踏まえて、各省庁が連携し、違法な盛土をさせないための体制づくりが検討され、法律改正も行われた。さらに、悪質な業者への対処方策もガイドライン化されている。

4.しかし、不安が完全に払拭されとは言えないのかも知れない。というのも、この土砂災害発生の経緯について検証されている公開資料を見ると、もっとやれることがあったはずだと思えてならないから。

5.さらには、そのような不安感は、1.で述べた災害対策基本法が持つ災害発生時のための体制整備という基本的な構造にも関連性があると推察できる。例えば、災害対策基本法に基づく災害基本計画における盛土の取扱を見てみる。そこには、現存する危険性のある盛土にどう対処するかということが詳細に書かれているが、違法・不適正な盛土を作らせないという発想の記述はない。

6.他方、同じ基本法である環境基本法では、「環境保全上の支障を防止するための」規制(同法21条)や経済的措置(同法22条)として、大気汚染などが生じないようにするための事前規制や経済的措置(税制か課徴金)を講じたり、研究したりすることが明記されている。この環境基本法の枠組みの下で各般の環境規制立法が具体化されている。

7. 災害対策基本法には、災害の発生・拡大の前提、要因となる事象を少なくする、特に、現在存在するものもさることながら、危険なものを新たに生じさせないという規制や経済的措置というものに関する規定は存在しない。こういったことが、違法盛土などに直面している市町村の不安感を払拭できないことに繋がっているのではなかろうか。

8.また、経済的措置に関連して、環境汚染の原因として環境汚染のコスト(被害)が外部化されていることに対処するべく、炭素税その他の環境保全コストを内部化する手法の研究が環境基本法には位置づけられている(同法22条2項)こと思い起こすことも有益だろう。災害を生み出す違法・不適正な土地や構築物についても、その災害発生のコスト、すなわち被害・損害(の期待値)が外部化されており、「やり得」となっている。そういった災害発生のコストを内部化することによって、危険な土地や構築物の新規発生を防止、抑制する方法の研究も進めるべきであろう。盛土のようなものは、都市の過剰開発のコストが地方や郊外に押し付けられたものであり、適切なコストの内部化は、都市中心の開発(ジェントリフィケーション)の過剰さをコントロールすることに繋がり、地方創生にも資するのではなかろうか。

9.石破総理の肝いりで「防災庁」を設置しようという動きが出ている。その際には、災害対策基本法における災害予防という概念(定義)を「災害の危険を生じさせないための事前措置」へと見直し、環境基本法の第21条や第22条のような危険の発生を事前に抑制するという発想の下に各種災害関連立法の体系化を行うべきであろう。そして、それらの規制が適切に実施されているかどうかを、防災会議の枠組みで、国レベル、都道府県レベル、市町村レベルで、「見える化」していくということが求められるのではなかろうか。