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THE SMITH「This Charming Man」

1982年、パンク熱が冷めやらぬイギリスにとある文学青年がいました。青年の名はスティーヴン・パトリック・モリッシー。彼はもともと大ファンであったニューヨークドールズのファンクラブを自ら立ち上げ、その会報を発行していました。
そして、その会報を熱心に読む別の青年がもうひとり。その青年の名はジョニー・マー。既にギタリストとして多方面で活躍していたマーでしたが、モリッシーの文章に感動し、一緒にバンド活動をすべく誘います。
これが、のちにイギリス中の悩み苦しむ若者に熱烈に支持されたバンド『 THE SMITHS 』の誕生エピソードです。



結成から1年経った1983年、すでに地元マンチェスターでは人気が出始めた『 THE SMITHS 』は、ロンドンのインディーズレーベル「 ラフトレード 」からデビューします。
1stシングルこそ、話題にはなりませんでしたが、2ndシングルの「This Charming Man」がヒット。

モリッシーの描写する独特な詩の世界感と、ジョニー・マーの奏でる繊細なギターの旋律が心地よい1曲です。
今回はこの「This Charming Man」を紹介します。


まず印象的なのは、この曲のPV。花の中でクネクネ踊りながら歌うモリッシー。
PVだけでなくライブ会場もお花で埋め尽くされていたり、Gパンの後ろポケットにお花を入れ、たまにそれを振り回しながら踊り歌ったり。

このPVが出るほんの数年前まで世界中を席捲していたヒッピームーブメントに対する当てつけのようにも見えますが、そんな風に勘ぐってしまうのはモリッシーの書く歌詞に理由があります。

モリッシーの書く歌詞は、全般的にシニカル&ネガティブで、UKパンク的な要素やイギリス特有のブラックユーモアに溢れており、マンチェスターという中流階級が多く暮らす街の出身であることが強く影響しています。

繊細で傷つきやすい少年のような心をモリッシーが持っていたからこそ、多くの悩める少年少女達の代弁者となり、熱烈に支持されたのでしょう。



彼らがデビューした当時、イギリスのミュージックシーンはニューロマンティックに代表されるようなトゥーマッチなファッションが主流でした。

その代表格がカルチャー・クラブのボーイ・ジョージ・・・と言えば分かりやすいと思いますが、彼らのファッションはというと、古着を着崩したシンプルなもの。大きく胸をはだけさせたシャツにアクセントでネックレスをつけただけのファッションは、当時のイギリスにおいては、逆に新鮮でオシャレに見えたことでしょう。

その見た目と音楽性でネオアコのジャンルに分類されやすいTHE SMITHSですが、こういう経緯を見ているとパンクの精神を受け継いでいることは明快。

アート性とインテリジェンスな雰囲気を持ち合わせていることが特徴と言われるポストパンクのイメージに分類する方が、自分としてはぴたっとはまります。


時は流れ、1990年初頭の音楽業界に空前のマンチェスターブームがありました。
そのブームの中心にあったのが「 Madchester/マッドチェスター 」と呼ばれたジャンル。

イギリスの都市、Manchester/マンチェスターと、狂ったの意味のMad/マッドを掛け合わせた造語で、かんたんに言うとロックをベースにハウスを取り入れたダンスミュージックが、それに当たります。「10年ひと昔」とよく言われていますが、この時もTHE SMITHSの結成からちょうど10年ほどでのマンチェスターブームでした。

どの世界でも、マイナーチェンジを繰り返しながら新しいものが生まれています。
ここ最近、出向いた色々な場所でTHE SMITHSの曲を耳にすることが多いように感じます。不思議と今に違和感なく馴染んでいるのがくすぐったい想いで、懐かしい感じもあり、また新たなブームがやってくる気配なのかと思うと、楽しみです。


のちに、とあるインタビューでジョニー・マーはこんなことを言っていました。

「 俺達は、かっこいいバンドを目指していたし、しゃれた趣味の奴らを感心させようって活動してた。そして、それはうまくやれたと思っているんだ。」と。

こんなバンドが、また生まれてくることをまた見てみたいものです。


written by 田中直美

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