帰郷
「しげちゃんと一緒にいると、楽しかったよ」
さようならが、あちらから訪れるのではなく、さようならの引き金をこちらが自発的に引かねばならない時に、どう腹をくくればいいのだろう。口がきけなくなっていても、皆がお気に入りの80's音楽のサビ手前の絶妙のタイミングで、リモコンの「次」を押すくらいには、まだ茶目っ気の残る人なのに。
校内マラソンのゴール手前で、走る体制のまま、じぃっとその場にフリーズし、「お願いだからゴールしてくださーーーい!」という組織委員会からの懇願のアナウンスが流れた、というエピソードも、市内で唯一UCCの珈琲を売っている自販機に通ったことも、思い出が次から次へと溢れて止まらないというのに。
ゴールテープなんて切らなくていい。いっそ、あの日のマラソンがずっとずっと続けばいい。銃声は、かけっこの最初だけでいい。
全編、福岡出身者による、純粋な福岡弁での公演。言葉の響きだけでも、親友たちの結びつきが感じられる。「博多弁ではなく、福岡弁の公演となります」と冒頭にアナウンスが入るということは、博多弁は全然違うということかしら。2時間ちょっとの福岡弁は、とても優しかった。
道具類は、パイプ椅子が何脚かとロッカーだけの、ほぼ全編空舞台。手持ちの小道具も無し。物体としてそこにいるのは6人の役者だけ。でもそこに全てが見える。
今日で東京千秋楽。この後は福岡凱旋公演だそうだ。劇中で出てくる、海岸へ向かう道の名前や地元のお店が、もっと身近に感じられるのだろうな。
最後に空を見上げる成志さん演じるしげちゃんの目の後悔の無さ。ああいう人に、私はなりたい。
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