東山魁夷展
好きな画家の好きな絵は、祈りのようなものが多い。
東山魁夷もそんな画家の一人だ。
人物は登場しないし、有名な白馬シリーズを除けば、動物もあまり出てこない。描かれるのは自然の風景ばかりだが、その風景を渡る風が、とても好きだ。
広大な山の木々を風が抜ける。特段木々がざわめいているわけではないのに、さわさわという気配を感じる。大気が巡っている。山のある場所へ行くと、パッと見、木々は動いていないけれど、しばらく見つめていると、ブロッコリーみたいな木々がそれぞれに揺れている。タイミングも少しずれていたりする。それと同じさやさや感を、東山の絵画には感じる。
月光も、波紋だ。そこにお月さまが描かれていなくても、月の光はさざなみのように、万物に降り注ぐ。しゃらしゃらとした銀の粒が北の国の湖を照らし、シダレサクラの花を散らす。
大気がある星に生まれて良かった、と思わせてくれる。
唐招提寺の襖絵の再現展示は、人がもう少し少なかったら、一時間くらいぼーーーっとしていたかった。潮騒が聞こえ、日が差し、波が運ぶ香りまで漂っていた。
前回行ったのが生誕100周年だったから、あれからもう10年経ってしまったことにびっくりする。
展示の締めくくりが、最晩年の作品だった。薄暮の中、ベツレヘムの星みたいな一番星を4本の木が眺めている作品で、あの星が救世主を表すのだとしたら、それは東山にとってなんだったのだろう、と思った。でも、あの星に旅立ったのかな、と思うのも悪くないな、なんて夢想したりもしている。
祈りは福音となる。どちらがどちらに、なんて分からないけれど。
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