231/366 【ゾゾゾ】 神楽坂怪奇譚 「棲」
語り始めたんですよ
時は黄昏、場は神楽坂。眼病を患った作家がお付きの者を待っている。彼の名前は泉鏡花。潔癖症で知られた少々アクのある作家だ。
視界を一時的に手放した彼は、何かの視線に気付く。下駄の音が聞こえる。上等な着物の衣擦れの音も。
そして彼は女と話し始める。ただの世間話のはずだったのにいつしか...
話に生気を奪われちまう
「物語が勝手に進む。自分の意思とは関係なく」
作家さんの後書きによく出てくる言葉だ。物語には物語の魂が宿る。作家はただ、ペンを握る手を(今ならキーボードを叩く指を)提供する傀儡なのかも知れない。
「リーディング」と銘打ってるのに、この舞台も又、ただのリーディングではない。お芝居だ。
そして、配信だからこその演出もふんだんに盛り込まれている。
階段につまづく鏡花が体感できる。鏡花の心に立ち込める暗雲が、我が家のパソコンにまでかかってくる。
途中、回想の物語が入れ子状態で挟まれるのだが、そこのカメラアングルにゾクゾクした。
演者の顔を一切見せないのだ。
画面に映るのは、首筋斜め後ろから耳にかけてのみ。語る相葉さんの顎の動きは見えるが、表情は一切見えない。
耳の形が綺麗であればあるほど、語る内容の空恐ろしさと見えない顔で心の臓が冷えていく。外の気温は何度?どうして私、こんなにひんやりしているの?リアタイ視聴のこの日の開演は午後1時。暑さマックスな時間なのだ。
生きたい、生まれたいと思うあまりに作家を憑き殺してしまうほどの物語。闇の魅力とは、なんて底なしなんだろう。そしてそんな物語に憑かれてもいい、この指を差し出しても物語を書きたいと思うのは、素人の浅はかさ故なのか。
配信だからこそ、演者の声が直接耳元に語りかけてくる。闇が魂に直接囁く。
70分ほどの和の恐怖だった。
私が見たのは、緒方恵美さんと相葉裕樹くんの組み合わせ。相葉くんの「女」が凄かった... ほぼ噛まなかった...
Defiled同様、演者によって随分と雰囲気が変わるだろう。もう1回見るなら、山路和弘さんの1人2役?1人5役が見てみたい。
配信は今週末まであるようだ。
まだまだ暑い日が続く中、魂の涼をお求めの方、如何でしょう。ちゃんと帰ってこれるかは各自の努力次第でございます。ヒッヒッヒ。
明日も良い日に。
伴走、41日目!
言葉は言霊!あなたのサポートのおかげで、明日もコトバを紡いでいけます!明日も良い日に。どうぞよしなに。