493/1000 【最初の一歩】 彼の名は(His name was...)
彼の名は、ジョージ・ペリー・フロイド・ジュニアでした
His name was George Perry Floyd Jr.
昨年5月、北米を揺るがしたBLM運動の発端となったジョージ・フロイド氏の裁判が先月結審した。
この裁判は、州の法廷にカメラが入り、裁判の全てが生中継されるミネソタ州初の刑事裁判となった。その中継内容は全てYouTubeにアップされている。
検察側の証人は38人。そのうちの8人、約20時間ほどの証言を確認し、改めて一次情報の重要性を確認した。
例えば、お亡くなりになる前のフロイド氏と最後に会話をしたCharles Macmillianさん。
17:10くらいからの映像で、チャールズさんはずっとフロイド氏に大人しくするよう説いている。「お前は過ちを犯したのだから」と。
You can't win. (警察には勝てっこないんだから)
勝てっこない。
正しいか正しくないか、のレベルにすらいかない、こんな言葉で見ず知らずの人を説かねばならないほど、人種差別は蔓延している。
当日、警官らが身につけていたカメラの映像もこの方の証言の中で流れる。20:49くらいからの映像の中で、警官らにパトカーに押し込められているフロイド氏はこう訴えている。
I'm claustrophobic...(中略) I can't breathe.
オレ、閉所恐怖症なんだ... 息ができない
ハッとした。昨年FBに公開された動画で一番取り上げられていたのがこの「息ができない」という言葉だった。
でもフロイド氏は、それをこの早い段階で言っている。パニック故ではあろうけれど、彼はそもそも車の免許を持っている。だからこの「閉所恐怖症発言」が警官には「言い逃れ」に聞こえたのかも知れない。その上で、「息ができない」とこの段階で訴えていたら、後から聞いた警官が「また言っていやがる」と思ったとしたら...
この方の証言中ではないが、その後、車内で抵抗するフロイド氏の力がどれだけ大きかったかを示す街中カメラの映像もあった。パトカーが大きく揺れていた。
これだけの力がある男性を可及的速やかに制御しなければならない... という警察側の恐怖感も下地にはあった。
それでもやっぱりショービン氏の行為はやり過ぎだ、とは思うが、この動画だけに限って言うならば、何故そこまでしてしまったのか、が少し見えてくる。
その後の証人の自責の念があまりにも辛すぎて、ここから暫く先に進めなかった。
数日後に証言したミネソタ警察の殺人担当刑事のトップ、ジマーマンさんの証言も、インパクトが大きかった。
48:00前後からジマーマンさんの証言が始まる。ちなみにその前に登場する、このリンクのサムネでも見えるエドワーズ刑事が超イケメン。俳優さんみたい。眼福狙いの方やかっこいい刑事フェチの方はぜひどうぞ。#六角精児さんみたいな刑事はおらんのか #相棒の見過ぎ
ジマーマンさんの証言の全てを通して、「検事、弁護士、裁判長、陪審員を含めた司法制度に参加する全ての人の正義への信頼感」が感じられた。
そもそも現役の警察組織の人間が元同僚の警官を起訴する側の証人として立つこと自体が珍しい。
その中で彼は、ショービン氏のuse of force(実力行使)が行き過ぎであったかどうかを淡々と証言していく。
体重を使う訓練もある。手錠が信頼できないこともある(壊れている)かも知れない。状況判断の材料は多く、周りの一般市民に害が及ばないように気を配る必要もある。一瞬で全てを判断しなければならない...
彼は事実を述べる。弁護側の質問にYesと答えたら、弁護人に有利になるかも知れない、と思われる質問(要は弁護人の聞き方が上手な質問)でも、それがYesなら淡々とYesと答える。そこには、その後の反論で検察側がちゃんと覆してくれるであろうという信頼感がある。陪審員もそこに反応してくれるであろうということも。
その上で、彼の実力行使は妥当であったか?という最後の方の質問に対し、彼はこう断言している。
Totally unnecessary. (間違いなく、行き過ぎだった)
警察とはこれほど崇高になりうる、というお手本のような方だった。世の中、こういう人ばかりなら良いのに。
彼の上司であるミネソタ警察署長アラドンドさんも素晴らしく高潔な方だった。2:02:00 くらいから。
後半はこちら。
警察は、相手に対する尊厳と敬意(dignity and respect)を忘れてはならない
これを繰り返し述べていた。
なぜなら、一般市民にとっては公権力と触れ合う初めての機会となるかも知れないのだから、と。
よって、相手がどんな状態であろうとも、保護の対象になるのだ、と。
その「状態」の中には、『薬物使用者であるか否かで「言葉による命令」への反応が違うことも考慮に入れなければならない』ともおっしゃっていた。
近しい人が亡くなって悲嘆に暮れていた。
自分がガンの告知を受けた。
こういった個人の内面に荒れ狂う嵐があった場合、いつもとは違う行動や反応をすることもあるだろう。それらを全て鑑みた上で、相手に対峙しなければならないのだ、ともおっしゃっていた。
警察とは、ここまで求められる存在なのだ。だからこそ、彼らには一般市民以上の「力」の行使が認められるのだ。
これらの話題の重要なポイントはミネソタ警察の訓練の有効性だった。
訓練自体はきちんとしている。相手についてのあらゆる状況を想定している。だから、警察体制そのものの瑕疵ではない。
この裁判の相手は警察組織ではない。あくまでも、個人が相手なのである。
アラドンドさんは、ジマーマンさんより警察擁護がうっすらと見えたが、概ね中立姿勢での証言だった。ジマーマンさんが超人すぎると思った方が良いのだろう。
他にも警察関係者らの証言、ショービン氏やフロイド氏の為人についての証人を経て、専門家による証言へと続くのだが、その専門家証言については、明日に持ち越し!
書きたいことが多すぎて終わらない...
明日も良い日に。