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③倒産家族の生活 ~ 個人保証ってまだ合法なんですか?

親の会社の倒産 ⇒ 再生ファンドと「再生される側」「再生する側」両方を経験した立場から、「倒産」について書く第3回です。読むのに5分くらいかかります。

今回、コロナの影響で飲食、宿泊、音楽、スポーツ関係を中心に倒産と自己破産が増える!という記事が出た際に、SNS上で
「あれ?個人保証ってまだ合法なんですか?」
というコメントがありました。
まだ、経営者と個人保証については誤解が多いんだなと思い、当初と編成を変えて「個人保証」について今回書きます。

80歳のおばあちゃんに借金数億円を背負わせる

図B

2020年4月施行の改正民法でも、経営者の個人保証は禁止されていません。
経営者の個人保証とは図のように、「会社の借金の責任を経営者個人、場合によってはその家族にも背負わせる行為」です。

会社の借金は売上にもよりますが、数億円規模もザラです。
家のローン数千万円でもヒーコラ言っている個人が、数億円にもなる会社の借金を返せるでしょうか?大半は借金を返せないので裁判所に「お金返せません宣言」をする「破産手続き」を取ることになります。
さらに、お金を返せなかったときに売却して返済原資とするために、「社長の自宅を担保にする」「家族を連帯保証人にする」行為も行われています。

私が過去関与したある会社では、介護施設にいらっしゃる80歳を越える社長のお母様まで数億円の会社の借金の連帯保証をさせられているケースがありました。介護が必要な80歳のおばあちゃんに、数億円の借金の返済能力があるでしょうか?

この個人保証が、「会社の経営の失敗=社長の人生の失敗」となり、再起のための障害となります。逆に、会社と個人がきちんと切り離されていれば、倒産が増えても、再起できる人は増えます。今回危惧されているコロナ倒産でも、この個人保証の論点は欠けている議論が多いと思います。

借入のある中小企業の経営者のうち、8割超が個人保証

平成24年度の国の調査なので若干古いのですが、この時点で、借入のある中小企業の経営者のうち、8割超が個人保証を提供しています。無借金の会社もあるので、その分を除くと、中小企業経営者の64%は何らかの個人保証をしていることになります。

上場を目指す企業は多いですが、上場企業になると個人保証が外れることが多いので、個人保証を理由に上場を目指す企業もあるくらいです。無借金経営を意識し、内部留保を溜める企業が多いのも、この個人保証が影響しています。

家を担保に取られている社長と、銀行員の無理解

私の父も会社の借金の個人保証をし、自宅を担保に取られていました。
物心ついたときから、「この家は借金のカタに取られてるんだよ」「倒産したら住めなくなるんだよ」と母にプレッシャーをかけられて私は育ちました。
実際に倒産⇒自宅の競売(裁判所が経営者の資産を売りに出すこと)を経験すると、住む家を失うダメージは確かに大きいです。(私達は幸運にも買い戻せましたが)「盆、正月に実家に帰る」ことができるのは、実は経営者の家族にとっては当たり前ではありません。

一方で、残念ながらこの個人保証について無理解なクソ銀行員も稀にいて、
「形だけですからハンコついて下さい」
などと、飛び蹴りをしたくなるほど恐ろしいことを平気で言ったりします。
「形だけ」なんてことは一切なく、倒産したら社長家族の生活にリスクが生じますので、実際にこういう法的理解に欠けることを言われたら、銀行の本店にクレームを入れて良いと思います。(本店はさすがに後述の金融庁ガイドラインに沿ってきちんと対応してくれると思います)

海外では理解されない経営者の個人保証

経営者の個人保証は海外では簡単に認められません。一部の国では法律で禁止、もしくは厳しく制限されています。理由はシンプルで、「個人と会社のリスクを切り分けるために会社を設立したんだから、なんで個人が責任を負うんだ?」というものです。

では、なぜ日本の銀行は個人保証を求めるのでしょうか?国の調査によれば銀行側の回答は以下の通りでした。

・経営者のモラルハザードの防止
・会社と社長個人が実質一体であるため、会社の信用力補完
・担保としての位置づけ
・財務諸表の信頼性担保のため(監査がない)

担保そのものよりも、「社長がテキトーだし、会社と社長は実質一体だし、たぶん粉飾してるからプレッシャーかける」という意味合いですね。個人保証を外すためには

① 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
②財務基盤の強化
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

とった会社側の努力が不可欠になります。
私の見解は、後述のように「会社の金で毎日キャバクラ」みたいなことはまずやめようぜということです。

個人保証をめぐる攻防とキャバクラのテキトー社長

当然ながらこの個人保証は事業承継の足かせにもなります。
誰だって親が作った会社の借金を個人で背負ってまで、引き継いで社長やりたくないですしね。
そこで、経産大臣はこの経営者の個人保証を将来的に撤廃したいと述べています。

金融庁も実態調査に加え、ガイドラインを作って銀行への指導を行っています。
また、今回の改正民法(4月施行)では、事業に関係ない親戚や友人が安易に保証人になってしまい、多額の債務を背負う(自己破産する)ケースを防止するため、事業に関係ない個人が事業用の融資の保証人になる場合、公証人による保証意思の確認手続が必要になるなど、様々な個人保証についての制限がされるようになります。

そして、中小企業が事業を引き継ぐ際に、経営者の個人保証を不要にする制度も国として検討が進められています。

国、銀行、そして弁護士の先生方が尽力しても、未だに商習慣として個人保証が残っている、これが実態です。

確かに、中小企業の社長はいい加減な人も多いです。
会社の経費でキャバクラに行ったと思うと、キャバクラのねーちゃんを2週間後には秘書や経理として雇ってたりと、まぁ、テキトーです。
その上、会社の数字を悪気なく粉飾して、売上を大きく見せたがります。
そのくせ、ロータリークラブとか業界団体は大好きです。

残念ながら、こんな「テキトー社長」もいるので、そのせいで銀行の不安がぬぐえず、個人保証制度が無くならず、真面目な社長達にまで影響してしまっていると考えると複雑です。まあ、銀行側も粉飾を見抜く力が意外と無いというのも問題なのですが…
また、真面目な社長達も、なかなか経営に必要な情報にアクセスできず(学校でビジネスを本格的に学ぶことは少ないので)、しなくてよい失敗をしてしまっているのも実態だと思います。

再生ファンドはリアルな実戦例をたくさん持っていますが、残念ながら守秘義務の制約から発信が制限されています。
私の役目は少しでも経営に役立つことを無料で発信することだと思って、一連の記事を書いています。

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