②倒産家族の生活 ~ 経営者の親を殺さない方法
親の会社の倒産 ⇒ 再生ファンドと「再生される側」「再生する側」両方を経験した立場から、「倒産」について書く第2回です。
今回は割と短め、3~4分で読めます。
悲惨なイメージばかりが語られる倒産と自己破産ですが、その大半が誤解です。きちんと弁護士に相談せずに、自殺、離婚、闇金、夜逃げに走ることが危険、と書いたのが第1回:リアルな生活と正月に届かない年賀状です。
今回は社長と自殺についてです。
↓ 連載に当たって
毎日どこかで自営業者が自殺している
1,483人
これは何の数字でしょうか?
答えは、2万人/年の自殺者のうち、自営業者の人数です。
計算上、毎日4人、自営業者が自殺していることになります。
コロナウイルスによる日本人の死者が3/13時点で21人なので、自営業者の自殺の方が数がはるかに多いです。
なお、厚労省によれば自殺者の10倍、未遂者がいるそうなので、10倍の1.4万人の自営業者の自殺未遂者がいる推計になります。
2018年の交通事故死者数が3,532人なので、交通事故の5.6倍、日本人は自殺で死んでいます。(これでも自殺者数は毎年減少傾向にあります。ピーク時は3万人/年でした)
出所:厚生労働省自殺対策推進室2018年確報
自分の父も一つ間違えばこの統計の1人にカウントされていたかと思うと、改めてぞっとします。
社長が自殺してもほぼ無駄死に
もし、自殺を考えておられる社長がいたら、マジで止めてください。
ほぼ無駄死にですし、会社を潰して年金暮らしした方が楽になります。
破産手続きにはお金が必要ですので、お金が手元にあるうちに、早めに弁護士に相談されることをおススメします。
【保険金】
よく、「取引先に迷惑をかけられない」「死んで保険金で返すんだ」という話を聞きますが、多くの場合死んでも無駄死にです。
2008年に改正された保険法51条には、自殺は保険金支払い対象外と明記されています。
そのため、保険約款上で「自殺した場合でも払う」となっていない限り自殺で保険金は下りません。
約款上で自殺の場合でも支払うとなっていても、多くの場合、「免責期間」が設けられており、免責期間内の自殺であれば、基本的に保険金は支払われません。免責期間の長さは保険会社や保険商品によりますが、1~3年です。これは、「保険金狙いの自殺」を防ぐ意図があると考えられます。
細かく言うと、もっと色々論点はあるのですが、詳細は弁護士の先生と保険約款を確認されることをおススメします。
【年金はもらえる】
破産法34条で、「新得財産」(破産手続き開始決定後に手に入れた財産)は裁判所の管理外となっています。自己破産して社長でなくなった後、公的年金は普通に受給できます。
中小企業の社長だった私の父もそうでした。
会社を経営していたときは、家のお金を会社の資金繰りに使っていたので、マジで家にお金がなく、私の学費まで使いこまれる始末でした。
しかし、年金+契約社員の生活になると、収入が逆に安定しました。破産手続きも終わると、床が抜けるほどボロボロだった家もリフォームできましたw
繰り返し書きますが、「倒産=全て悲惨」というわけではありません。勝手なイメージで自殺や闇金、ヘンな人に相談に走ることが本当に危険なのです。正確な情報が経営者に伝わらない背景は、第1回で考察しました。
社長の親を殺さない工夫
「死んで保険金で返すんだ」
「名誉の神風特攻だ!」
「晩節を汚すくらいなら死んでやる」
と私の父もよく言っていました。
そこで私の母は弁護士の先生に相談の上、生命保険をすべて解約します。
目的は
・生命保険解約返戻金を私の学費にあてるため
・死んでもカネが入らないから死ぬなと父に言うため
の二点です。そして、破産手続き費用を別口座に分けました。(父が会社の資金繰りに使わないようにするため)
また、会社を存続させずに年金+会社員生活をした方が生活が安定することも話し、「精神を病んで自殺するくらいなら会社は潰そう」という話を母は弁護士と進めていました。父がおかしくなったのを見て、周囲が引き金を引きました。本当に英断だったと思います。(就職活動中の私はその後、酷い目に遭いますが…)
「あんたが死ぬと年金もらえへんから死んだらアカン」
合理主義者の母らしいセリフでした。
父はこの母のセリフで頭が上がらなくなり、倒産後は母にペコペコしながら生きています。父は相当イイカゲンな人間なので、自殺せずに済んだのかもしれません。また、家族の連帯保証もなく、闇金にも走っていない(走る前に母は会社を潰すつもり)ので、ヘンな表現ですが、「上手く破産できた」とも言えます。
倒産は確かに会社、個人、家族とまとめて問題が起こるので、「死んで楽になりたい」とも考えてしまうそうです。精神を病んでしまう人も多いです。私が過去に関与した先でも、災害に遭った会社の社長夫婦が遺書を書いていたのを見てぞっとしたことがあります。
「死ぬ理由」を周囲が先に潰しておくことで、「会社の死=社長の死」になる事態は少しでも減らせるのではないでしょうか。
なお、父の会社には祖父の代から某有名コンサル会社が関与していましたが、会社が傾くと一目散に逃げ、頼れるのは父の長年の知人だった弁護士の先生でした。偉そうなコンサルも、いざとなったらクソほど使えない可能性があることも、お伝えしておきます。
参考図書
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