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算命学余話 #U103「ゲゲゲの水草処世術」/バックナンバー

 『ゲゲゲの鬼太郎』の原作者である漫画家、水木しげる氏が先日93歳で亡くなりました。ラバウルで左腕を失い、復員後もドタバタした貧困生活が続いた末の鬼太郎ブーム到来は、ようやく40代になってからの遅咲き人生でした。その妖怪じみた飄々とした人柄の底には、目に見えない世界や力の作用に対する人間の無力無能や、それらに翻弄されて自分を見失う人とそうでない人とを見分ける確かな目がありました。算命学は善悪を論じませんが、水木氏の認識する妖怪論もまた善悪は浮遊しており、結論を下すこと自体ナンセンスといった態度に通底するものを感じます。
 市場経済や能力主義、大量消費社会や人間至上主義といった今日的で病的に硬直した価値観をグニャリと和らげる役割を図らずも担ってきた水木氏は、以下のような提言を自著で述べています。

【水木しげるの幸福の七か条】
第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、事を行なってはいけない。
第二条 しないではいられないことをし続けなさい。
第三条 他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追究すべし。
第四条 好きの力を信じる。
第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。
第六条 怠け者になりなさい。
第七条 目に見えない世界を信じる。

 私が受けている運勢鑑定依頼の多くは、上手くいかない人生をどう上向かせるかという相談なのですが、その相談に対する回答のベースが奇しくもこの七か条と合致していたので、取り上げてみました。現代人の悩みの多くは、上述の「市場経済、能力主義、大量消費社会、人間至上主義」等を善とする物質世界に偏る価値観と、それとは異なる自分の価値基準とのギャップから生じているものであり、これを解消するには自分の価値基準が世間様の称える王道に比して劣ったものではない、という新たな視点を脳内に打ち立てることが有効です。そうでないと、物質礼讃の価値観に自分を無理やり合わせることになり、そこで成功してもしなくても本来の自分からは逸脱し、最終的には心身を病んでいくからです。
 その人の価値観が明らかに間違っていれば、その間違いを正すべく私の辛口診断が火を噴きますが、そうでない場合は、社会の価値観の方が病んでいる可能性にも目を向けさせる必要があるのです。思想としての算命学の有効活用はまさにこの点だと思いますし、内容的には同じ視点に立っている水木氏の意見に一目置く日本社会にも、まだまだ救いはあると思います。外国人がこうした世界を柔軟に受け入れられるかどうかは大いに疑問ですが。

 今回の算命学余話は、妖怪を介して世の価値基準を覆す力を、おそらくは無意識に発揮していた水木しげる氏の宿命を見ながら、あの独特のキャラクターと数奇な運命についての由縁を探ってみます。水木氏の日干支は乙亥の日座中殺。霊感を暗示する星としては人体図右足に天極星がありますが、いわゆる動物占いで云うところのゾウです。なんとなく風貌がゾウに似ているような。また余話#U100で提示した乱命局に該当しています。
 もちろん、水木氏と同じ生年月日の人が全員お化けと友達で、妖怪漫画でブレイクしたわけではありません。世代的に戦場で命を落とした人の方が多いくらいでしょう。彼が生き延びた理由が宿命から読み取れるか、試みてみます。

 例によって宿命鑑定は今回のテーマに沿った一部のみを取り上げます。全人生を総括すると膨大な説明が必要になるので、あくまで顕著な部分をかいつまんだものとしてご覧下さい。

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