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算命学余話 #U84玄「矛盾と向き合う」/バックナンバー

 前回の余話で採り上げた内田樹氏の「頭にキック」説は、岩田健太郎という若手医師の対談集『医療につける薬』に収められています。もう一人、鷲田清一という倫理学者を交えた鼎談になっている章もありますが、三者の共通点は現代社会の慣例に対する疑問、硬直しがちな社会通念に対する鋭いツッコミという視点であり、奇しくも前回挙げた龍高星の持ち味を体現したような人たちの対話なので、算命学学習者で龍高星がよく判らない人には参考になるかと思います。

 例えば医療に関してこんな対話がありました。現在の精神科の現場では薬を処方するのが通例なのですが、当の精神科医の中にこれを疑問視する人が多い。なぜなら精神科に来る患者の中には会社勤めのサラリーマンが多く、会社の人間関係によるストレスで病となった人たちなのに、彼らに薬を与えて回復させたところで、結局元の職場に戻る手助けをしているに過ぎないからです。せっかく元気になったのに、また元のストレス環境へ戻してしまう。そこで再び病気になり、再び来院して更に強い薬を処方する。その繰り返しが治療だとされているのです。むしろ、こうした患者に必要なのは転職を勧めることであり、それは医師の仕事ではなく適職診断や進路相談の領域なのだと、良識ある精神科医は気付いているというのです。
 しかし現社会の通例・通念として医者は自分の患者に対し全力を挙げて治療に臨まなければならず、患者もそのつもりなので強い薬を自ら望むようになる。患者の需要に応えようと新薬開発が促進され、社会に薬が溢れかえる。医師はこれらの薬を患者に飲ませることの意味を吟味することなく機械的に処方し、世の中には薬漬けの市民が無理を重ねて適性のない職場に留まり続ける。こうした状態を「おかしいじゃないか」と思える感覚を持つことが大事なのだと、鷲田氏は語ります。医者に必要な能力が、最先端の薬を処方することではなく、そもそもの病巣がどこにあるかを突きとめる能力であるのと同様に、哲学者に必要なのは、社会における病巣がどこにあるのかを直感するセンスなのです。

 算命学の認める学問の最高峰は哲学です。それは知性の最高峰ということであり、知性を司るのは龍高星と玉堂星です。実母を意味する玉堂星は、知性に優れるとはいえ堅実さや保守性からあまり離れることはできませんが、養母を意味する龍高星はおのれの立脚点すら疑う自由な発想を武器に、上述のような社会の矛盾を直感で察知する能力に長け、矛盾を解こうと既成概念に闘いを挑みます。龍高星が狂人との評価を受けやすいのは、その他の星々の多くが、転職よりも薬に頼る現代の治療方式に疑問を抱かないという種類の風潮を作っていることの表れなのかもしれません。

 ともあれ、この世には矛盾が付き物です。明治以来の富国強兵策に基づき制定された学校教育では、物事を合理的に処理する訓練が中心で、あたかも解けない矛盾はないとばかりの単純な思想を子供の頃から植え付けました。結局こうして育った子供たちが大人になると、矛盾に満ちた社会環境に対応できずに病気になり、病気にならないまでもグチったり人のせいにしたりといった見苦しい風習が蔓延することになったわけです。明治以前の社会にグチや人のせいにするといった風習がなかったとは思いませんが、少なくとも現代ほど心の病を抱えた人の比率は高くなかったと想像できるのですが、皆さんは如何でしょう。
 というわけで、今回の余話は矛盾についてです。算命学は陰占と陽占の二本立ての形態ですが、陰占がこうだと云っているそばから、陽占がそうではないと云っている、という事態はよくあります。陰占と陽占の主張が矛盾している場合のみならず、宿命が大運と矛盾しているとか、六親法と矛盾しているとか、守護神と忌神が同時にのぼっているとか、局法がかぶっているとか、なにしろ鑑定すべきアイテムが多いですから、それらが互いに矛盾し合うということは、実はざらにあります。こうした矛盾を、鑑定者はどう処理しているのか、或いは処理していないのか。
 今回は12回に一度の玄番ですので、考察がメインになります。鑑定技法の話はあまりしませんが、代わりに鑑定依頼の実話を挙げて、鑑定する側の心構えについてやや説教じみたお話をさせて頂きます。玄番の購読料にご注意下さい。

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