【Medical Emergence Talk】#9〜世の中は「痛みの勘違い」で溢れている(後編)
前編を読んでいない方は、まずはこちらから!
川尻:ドクターが「痛みの原因は軟骨です」って言ってるようなことって、実は、整体の人が「痛みの原因は骨盤の歪みです」と言ってるのと同レベルだということを理解してるかってのも、結構大事だと思うんすね。
ドクターは絶対、そう思ってないですけど(笑)
朱田:思ってないですね。でも、整体師の中にも『本当に骨盤が歪んでる』と信じてる人もいるわけですよね。
『骨盤の歪み』っていうものの定義は、実はめちゃくちゃ適当なんですよね。ほぼ間違いなく正確な評価などしていない。そもそも骨盤って、とんでもなく硬い組織なんで、歪んだら大変ですし、歪んでいたら変形か先天的な異常です。
つまり、「軟骨が削れているから痛いんですね」というのも、「骨盤が歪んでいるから痛いんですね」というのも、実はどちらも個人の一部の特徴でしかないわけです。そして、それが本質的に痛みと関係するのかどうかは分かりません。だって、骨盤が歪んでいる(本当は歪んでないけど 笑)だろう人は山ほどいるし、軟骨が削れている人も山ほどいるわけです。それらの人たちは、みんな漏れなく同じような不調があるかと言ったら、実際はそうじゃないわけですよ。
川尻:でも、患者さんの立場からすると、全然それで構わないと思うんですよ。
朱田:そうなんですよね。あとは、患者さんにどこまでのリテラシーを求めるかは、なかなか難しいですよね。複雑な脳の働きとかに対して、どのぐらい患者さんが興味を持ってくれるのか。あとは、ある程度の基礎知識があるのか。小中学生の保健体育で習う知識で良いんですけど。
川尻:それはその通り。
痛みの治療で治る人は、たったの5割!?
川尻:痛みには、本当に様々なものがある。例えば、骨折、捻挫みたいな急性外傷ものもあれば、腰や肩などの痛みが続く慢性的な痛み。他にも、全身的な痛み、整形外科疾患からではない痛み・・・様々な痛みがありますよね。その中で、実は私たちプロが治せる痛みというのは、残念ながら、まだ半分ぐらいしかないんですよ。なぜなら、痛みには解明されていない部分がいっぱいあるから。
朱田:そうです。
川尻:だから、プロと言われる人の治療の中でも、全然うまくいってない部分がいっぱいあるわけであって。そこを真摯に受け止めて、どうにかしようっていう姿勢はすごく大事だと思っていて。
例えば、「軟骨ですよ」って言っちゃう整形外科の先生と、「足の長さが違いますね。はい!お直りました!」って言っちゃう整体の先生って、結局、どれぐらいの患者さんが本当に治っているのか?というところを、ちゃんと考える必要性があると思うんですよね。
その治療で患者さんに「治りました!」と言われたケースは覚えていても、治らなかった人のことはわからない。なぜなら、その患者さんは他の病院に行くから。
朱田:そうなんですよね。わからない。
川尻:多分我々って、治している気になってるだけで、実は半分、いや、もっと高い確率で治せていないケースがあるんじゃないか?と思っていて。
一つ一つ丁寧に考える事って、すごく大事じゃないかなって思っています。
朱田:そうですね。ただね、仕組み的に、無理があるっていうか・・・
川尻:うん。その問題もありますけどね。
理想的な痛みの診察とは?
朱田:僕の思う理想的な痛みの診察は、整形外科、リハビリ、接骨院や鍼灸などとの棲み分けをクリアにすると、うまくいく気がしています。
・整形外科医は構造を診る人
・理学療法士は動きや感覚を診る人
・整体や鍼灸は局所の緊張を和らげる人
というように、区分をはっきりさせるとうまく回ると思うんですよ。今は、全てが混ざりあっているので。
川尻:なるほど。
朱田:例えば、整形外科医のところへ行ったら「軟骨が削れています。痛みの原因はそれだけではないんですが、私たちは構造を診る機関なので、軟骨の治療を希望されるのであればします。そうでないなら、『痛み専門外来』でお話をゆっくり聞いてください」って感じになったら、いいんだろうなって思いますね。
川尻:僕も、まさにそれが大事だと思ってます。ただ、棲み分けを現実化する上で、ドクターが最上位にいることって、大きな障壁になると思っています。患者さんや、他の医療従事者の視点もそうだけど、ドクター自身の理解もそう。「ドクターが全て正しい」みたいになっているのは、違うかなあと。
朱田:それはそうですね。
川尻:ドクターも、「構造のスペシャリスト」として、1ピースなんですよね。他のピースと同等に、ちゃんとテーブルに並列に並べて物事を整理しないと最善の結果は出ないですよね。
朱田:そうですね。
川尻:例えば、ドクターが『疼痛の専門クリニック』を作るときに、ドクター自らが、それぞれの専門スタッフを並列なレイヤーで設計ができるかどうかが、めちゃくちゃ大事な要因かなと思いますけどね。
朱田:本当にその通りで。『慢性疼痛外来』とうたっている病院は既にあるんですけど、実際の診察内容を見てみると、結局「あなたの痛みは末梢神経が炎症を起こして・・・」「腱の炎症が・・・」みたいな治療になっていて、 既存の整形外科とあまり変わらない結論になってしまっています。
川尻:そうそう!あと、原因を一つに絞りたがる点も問題ですよね。
朱田:そうですね。
川尻:人間を含め、生物の生命活動は、自分の内部の状態変化と外部の環境変化の両方に適応しながら、複雑に変化を続けている。にもかかわらず、不調の原因を一つに絞るということ自体が、おかしいですよね。その辺まで全部理解した上での、疼痛外来がちゃんとデザインできたら、すげえおもろいと思うんすよね。本当に。
世界的に画期的だと思うので・・・ぜひぜひ朱田先生!作ってください!
朱田:え!?俺?(笑)いや、本当にそうですよね!
ここまで、いかがでしたか?少し難解な内容でしたが、「痛みの新常識」と、痛みの治療にまつわる問題点を、なんとなく掴んでいただけましたか?
次回からの対談では、「じゃあ、この痛みどうしたら良いの?」というお答えすべく、具体的な「痛みの対処法」をお伝えしていきたいと思います。
お楽しみに!
*この連載は、オンラインサロンMEG※(Medical Emergence Group)で配信されていた対談の一部を編集してお届けします。