【Medical Emergence Talk】#10〜痛み治療、本当に正しいのはどっち!? 整形外科VSマクロなアプローチ(前編)〜
朱田:前回の対談では、痛みの総括的な話をしました。
川尻:「痛みは痛みがある箇所だけの問題ではなく、脳の解釈だ」ということでしたよね。
朱田:今日はもっと具体的に、複雑な痛みに対して、実際に現場ではどんな治療が行われているのか?を、一人の患者さんを想定して『整形外科的なアプローチ』と『マクロな視点からのアプローチ』とを比べてみたいと思います。
川尻 ぜひぜひ、やりましょう!
本文を読み進める前に「痛みの新常識」を読んでいない方は、
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膝の痛みの治療:典型的な整形外科アプローチ
朱田:想定する患者さんは、『40代男性。マラソンが趣味で膝の痛みを抱えている。急性の外傷はなし』とします。
川尻:いいですね!
朱田:整形外科的には、まず「構造の異常がないかな?」っていうところから入ります。まずは問診をして、過去の骨折の治療歴や背骨の脊椎の異常などを聞いて、膝を触って構造的な異常がないかを見ます。その上で必要があれば「レントゲン撮りましょう」となりますね。
レントゲンを撮る目的は、アライメントの確認です。膝がO脚やX脚かがないかとか、半月板の位置や太ももの回旋具合などをチェックします。もし、何も見つからなければ、「MRIを撮って詳しく見ましょうか」となるわけです。
川尻:構造の異常を、細かく探しにいくわけですね。
朱田:はい。それで、例えば内側の半月板に小さい断裂が見つかったとします。すると、診断は「半月板損傷があり、そこから痛みが出てる可能性が高いですね」となります。
あっ!今演じているのは、クラシカルな整形外科の場合ですからね。
川尻:朱田先生じゃなくて、一般的な整形外科の診察の感じですね(笑)
朱田:その後、「半月板に傷があると炎症が起きるので、膝が腫れたり、痛くなったりします。もし痛みを取りたいなら、半月板を直す手術をしましょうか」と言われると思います。手術で半月板を縫うか、内視鏡で削ったりしたあとは、リハビリをして太ももの筋肉を鍛えて・・・という流れになると思います。
それでも膝に違和感が残る場合は、大抵「半月板が消えましたから、しょうがないですね」「ちょっとそこは年齢的な変化もあるんで、うまく付き合いながらいきましょうか」と言われる。これが、クラシカルな整形外科のよくある日常の流れって感じですかね。どうですか(笑)
川尻:まあ、なんていうか・・・我々は昔からそう捉えてたよねって感じですかね。やはり、痛みの知識に関して「アップデートが必要だな」っていうのは、すごく思いましたよね。いまだに、構造の破綻と痛みがイコールになってるわけじゃないすか。
朱田:そうです。
川尻:そこの方程式は、一旦辞書から消去しないとだめですよ。
「機能ではなく、まず構造から見る」っていう、その一歩目が間違ってますよね。
伝統的な整形外科の「痛み治療」は、
最初の一歩から間違っている!?
川尻:痛みというものは、構造異常の結果起こるものではなくて、体を動かす機能、身体の状態や位置を感じる機能など、様々な身体機能全ての結果として作り出される経験です。構造というのは機能を構成する一つの要素でしかないということですね。
例えば、パソコンで何か文章をタイピングをするとします。それには、キーボードやICチップ、モニターなどの構造が必要ですよね。でもそれだけでは、文章は生み出せない。
その上に、OSやプログラム、空冷機能などの様々な機能が組み合わさって、その結果として「タイピングされた文章」という結果が生まれますよね。そのどれが欠けても完成しません。痛みも同じです。構造というのはあくまでもハードの話で、あくまでも一つの要素でしかないということですね。
だから、さっきの整形外科的アプローチは、一番大事な、最初の交差点で、曲がる方向間違ったよね!っていう感じです(笑)
朱田:あはははは(笑)いやまあ、そうなんですけど。
ただ、患者さんが求めるものに応えなきゃいけないってところもあってですよ。
川尻:そうなんすよ。そこはすごく難しいし、面白いところでもある!実際に、「本当に手術をしてよかった。大変だったけど、テニスができるようになりました、ありがとう!先生」って、言う人もいっぱいいるんですよ。
ただ、そこを深掘りをすると、構造が変わっていようとなかろうと、実は関係なかったって事もあったりする。でも、手術をしたことで、患者さんの中で心境の変化が起きたということがすごく重要だったりします。
朱田:そうですね。
川尻:あとは、現実的には「患者さんが手術を求めていたら、それに応えないと、ビジネスにはならない」という側面もありますよね。本人が手術したいのに、「いや、でもね、痛みは情動だから・・・」って言っても、「この先生、変やわ〜〜」って、他の病院に行かれちゃうみたいな話になったりするわけじゃないすか。
っていうこと考えると、ドクターだけの問題でもないから、いろんな層にアプローチをして痛みの理解を深めないと、結局変わらない問題だよなっていうのは思います。
朱田:それはそうですね。ただ、実際には、構造的な破綻が明らかに膝の不安定性や筋肉のバランスの悪さを生むということもあります。その結果、動きのコントロールが難しくなって、痛みとか違和感を感じてしまう。
例えば、「O脚が酷い」みたいに構造的な不安定さが明らかな場合、直せば、少なくともその人の膝の不安定性はある程度解消できるから、いいかなとは思うんですよね。先には進むことが出来るっていう感じ。個人的には、それが全てだとは思ってはいないけど。
「痛みの治療=手術」は、正解?不正解?
川尻:でも、安定性を作る機能というものがあるわけじゃないすか。構造だけで成り立ってるわけではないじゃないすか。
朱田:もちろん。
川尻:結局のところ安定性というのは、構造的な要素と機能的な要素が合わさって作り出されるものだと思うんですよ。にもかかわらず、「不安定=構造に問題がある」っていう方程式を作っていることが、問題だと思うんですよ。
朱田:そうなんですけど、構造か機能かという10か0かの話はしていなくて、変化が大きい人の場合、構造は何かしら安定性に寄与はしてるわけですよね。手術という技術を使えば、構造を安定させる方向に持っていくことができるので、それ自体を別に否定をしなくても良いと思います。本当に軽いものでも手術をしようとする先生もいるから、それはどうなのかなと思うんだけど・・・
川尻:確かに手術が必要なケースって絶対ありますよね。それを、全否定はしませんけれど、なんでもかんでも手術をするというのはいかがなものかと・・・
朱田:それは、やっぱそうだと思います。では、次は川尻さんのアプローチを聞かせてもらってもいいですか?
後半へ続く
*この連載は、オンラインサロンMEG※(Medical Emergence Group)で配信されていた対談の一部を編集してお届けします。