なぜ読んだか
筆者の前著を読んだ時に、世界を関係として・過程として捉えるという、まさに私がとりたい方法について記述がありました。
新作である本書は、そのタイトルからしても、私にとって参考になるだろうと予想しました。
何を学んだか
私の出発点である「空」の認識に、筆者は量子重力理論から辿り着いた。
量子とその関係論的な性質を理解しようと文献を読み漁っていた頃、龍樹の「中論」と出会い、「空」を知って衝撃を受けたといいます。
遅ればせながら私も「空」の認識を得ました。そして「両義性と循環」をテーマに、主客を分別しない分析方法を探していました。
ここで、量子論に辿り着いた自然科学の方法は、私の求めていた関係を記述できる方法だという確信を得ました。
量子力学の解釈
量子論は「量子の重ね合わせ」、「量子干渉」や「量子もつれ」という奇妙な現象を観測しています。
これの現象の解釈として様々な仮説があります。
例えば「多世界解釈」、「隠れた変数理論」、「QBイムズ」です。
本書によれば、前者2つは不確定性を受け入れず、代わりに多世界のような新しい現実を作り出す。また、「QBイムズ」は観測者がまるで外側の立ち位置にあり、観念論に陥ると指摘します。そうではなく、観測者自身も、観測されて量子論で記述されるのではないかと。
本書は、関係論的な解釈を提示します。
科学者=観作者も自然の一部であり、量子論は「自然の一部が別の一部に対してどのように立ち現れるか」を記述するのだと。
そして、関係論的な解釈は次のような答えを出しました。
「対象物の属性は相互作用の瞬間にのみ存在するのであって、その属性が或る対象物との関係では現実でも、ほかの対象物との関係では現実ではない場合がある」と。
量子論からの示唆
量子論は近視眼的な日々の経験からは遠く、日常生活にとって直接の役には立たないと指摘しつつ、問いの表現を変える示唆があるといいます。
ここから本書は意味論や認識論の領分へと足を踏み入れます。
例えば、相互作用と進化の2つの概念で「意味」を理解することができるといいます。
この、生存にとって「妥当な相対情報」を第一歩として、何かと何かを結びつけながら多様な意味が広がっていきます。
また、私たちの認識は内側の視点だと指摘します。
そして、心の本質についても、二元論、観念論、唯物論に限られない選択肢を提示する。心的現象も複雑な自然現象であると。
所感
方法論について示唆を得られただけでなく、「死にゆく生」というテーマでいずれ構築したい価値体系についても示唆を得ることができました。
量子論が「空」の認識に辿り着いたということは、私が行いたい「両義性と循環」の分析は自然科学的方法によって記述できるという確信を得ました。
私の問題にとっては関係論的な解釈が正しいのかどうかは関係がありません。事実として関係を記述できていることが重要です。
また、「妥当な相対情報」は、私の出発点であるニーチェの意味の哲学と重なるのではないかと思います。そして相関の連鎖によって、意味の体系が広がっていくのではないかと。
そして、興味の湧く分野が増えてしまいました。
ダーウィンの進化論です。