ぬいぐるみ小説集「壊れかけた月の下で何役もこなし続けるウサギ」(半分)#シロクマ文芸部
※こちらを含む「ぬいぐるみ小説集」をkindle出版しましたので、公開済のものの内容を半分程度にしております
月の色を移したようなウサギのぬいぐるみの肌には、クレーター模様も点在していた。それは疲弊した月の影響なのかと、最初は思った。
彼女は忙しそうにしていた。
「亀と競争したり、サメに追いかけられたり、モチをついたりしなくちゃいけないの」
彼女の下に散らばる小さな白いぬいぐるみは「モチ」なのだという。
「モチって何だい?」私は自分の中を検索するよりも、声に出して訊ねた方が会話が発展することを覚えていた。
「人間が好きだったものよ!」
私は彼女と亀の競争を観戦した。何度やっても、彼女は亀に勝てないのだった。遅い歩みで、苦しそうに、彼女は歩いた。もうまともに動くことすらつらそうに見えた。亀の後はサメが彼女を追いかけた。もちろん逃げ切れるはずもなく、サメは遠慮がちに彼女に噛みついた。そうして彼女のクレーター模様は増えていくようだった。
以下こちら
(了)
シロクマ文芸部「月の色」に参加しました。
ぬいぐるみ小説集の一編「公園の廃墟で最後の絵本を読むクマ」
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