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「怪獣たちの日常」#シロクマ文芸部

 金色に光る身体を持つ怪獣が手で稲刈りをしている。夕焼けが反射して色がうるさい。

 地球侵略を企てながら、あっさりヒーローに敗れた怪獣たちは、罪滅ぼしのために地球のあちこちで働かされている。稲刈りを手伝うくらいなら構わないが、信号機のつもりで働いて無人走行車両たちの渋滞を引き起こすようなやつもいる。

 本屋で働いていたのは、これまで読んだ本で身体が構成されている怪獣だった。


 本屋を一回りしても欲しい本が見つからなかったのだが、店員の怪獣の身体の一部に、ずっと読みたかった本を見つけた。こっそり抜き取ると「何するんですか!」と怒られた。
「この本が欲しいんです」
「変態!」
 決してそんなこといわれるような内容の本ではなかったのに。
 でも想像してみると、自分の爪を一枚剥がされて「この爪が欲しいんです」と言われたら恐ろしいな、とも思った。申し訳ないのでレジ横に並んでいた本を三冊買った。

「怪獣たちの本音」
「故郷の星に帰りたい」
「宇宙征服目指してた頃の方がホワイトだった」

 本屋から出た頃には、稲刈りはすっかり終わっていて、たくさんの怪獣たちが田の上で休んでいた。

 家に帰ると妻に本を手渡した。読みたかった本が入っていたらしく喜んでくれた。
「人間は見つかった?」と聞かれたので
「今日も見なかったよ。もうどこにもいないみたいだ」と答えた。


 地球に住む人間が滅んだ後でも、ヒーローは怪獣から地球を守り続けている。おかげで妻と出会えたことには感謝している。私に与えられた「生き残りの人類探し」の仕事はいつまでもはかどらない。

(了)

今週のシロクマ文芸部「金色に」に参加しました。一人ぽつぽつ進めている「異形の日常」の怪獣バージョン。AIはすぐに怪獣をゴジラっぽく描こうとします。


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泥辺五郎
入院費用にあてさせていただきます。