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社会正義(ソーシャル・ジャスティス)って?
ポートランド州立大学では、日本のほとんどの大学では聞いたことのないようなユニークで興味深いクラスが多く提供されています。私は今学期、「Artist as Citizen (アーティストとして、市民として)」というクラスを受講しています。
私はソーシャル・アーティスト(英語ではSocially Engaged ArtistもしくはSocial Practice Artist)として、「既存の社会に存在する事象をアートとして捉え直して価値を認識すること」や「コミュニティとの協働の中で新たなアートとしての価値を見出す」ということを”現代アートとして”実践研究しています。
このクラスで市民活動の中にあるアート性を学ぶことは、直接的に私のプラクティス(実践)に繋がるだろう期待を持っています。
さて、ポートランドでよく聞く単語の一つに「ソーシャル・ジャスティス(Social Justice)」というものがあります。これ、日本語では「社会正義」と訳しますが、日本では一般的にはなかなか使われない言葉だと思います。どうでしょうか?
少なくとも私は、英語を訳すときにしか聞いたことがありませんw
感覚的に近い感じで使われている言葉としては「公共」とか「(基本的)人権」とかかなぁと思います。
と書くと、「社会正義と公共は違うでしょう!?」という声が今にも聞こえて来そうですが(笑)、そのくらい日本では一般的に「社会正義」という概念は身近ではなく、また、社会の成り立ちの違いにより「公共」や「人権」の理解や感覚もアメリカのそれとはそもそも異なることを指摘しておきたいと思います。
さて、さまざまな言葉の定義や感覚が異なるということを大前提に、このソーシャル・ジャスティス(社会正義)なるものについて紹介したいと思います。
社会正義(ソーシャル・ジャスティス)とは
理論的には、「社会正義」とは「すべての社会的不平等や格差を根絶すること」を意味します。
そして、実際には「法的および文化的手段を通じて社会問題や不正に対処し、改善する方法を模索すること」として使われている言葉です。
「社会正義」のコンセプトの源流は、古くはプラトンやキリスト教の初期にまで遡ります。が、現代的な意味で「社会正義」というフレーズが広く使われるようになったのは、産業革命の時期からだそうです。
その時代の所得格差や、差別、不条理な世の中の問題を是正し、より公正な社会を築こうとする運動が盛んになったのです。その後、現代哲学者たちが「社会正義」の概念を現代社会のニーズに合わせて更新していきました。この概念が、20世紀から21世紀にかけて急速に支持を集めました。
現在では、社会正義の確立を目指す取り組みは、非営利団体や慈善団体の範囲を超えて、国際連合の憲章にまで及んでいます。
こう振り返ると、社会正義とは比較的新しい概念でかつ、近年は特に注目されている概念であることがわかりますね。
社会正義の原則
社会正義自体は広範な概念ですが、社会正義運動には本質的な以下の4つの原則が共通しています。
機会の平等 (Equality of opportunity) : 伝統的な正義(少なくとも理論上)は、すべての人々に対して法の前での平等な権利と平等な機会を保証すること。
結果の公平性 (Equity of outcome) : 社会正義の活動家は、市民社会は所得格差、人種格差、その他の集団間の格差をなくし、すべての人々が同じ特権、権利、資源を享受できるよう努めるべきだと考えています。(ただし、社会正義の定義は柔軟であり、この立場に関しては例外を含めることもあります。)
アメリカでは近年、このイクイティー(Equity)という言葉がとても頻繁に使われるようになりましたが、日本ではいまだイクイティー(公平)とイコーリティー(平等)の違いさえ認識がされていないように思います。いかがでしょうか?人権(Human rights): 社会の社会的発展は、部分的には、すべての集団に対する人権の認識に依存します。人種、民族、性的指向、障害の有無、その他の識別要素に関係なく、人権は各個人の法的および文化的な尊厳を保障します。
「日本は人権意識が低い」という声をよく聞きます。実際に2023年、国連人権理事会の審査が行われ、日本は115カ国から300個の勧告(!)を受けました。専門家から「日本には人権に関する構造的な課題がある」と指摘されています。包摂(Inclusion): 社会正義を実現するためには、すべての人が意思決定の場に参加する必要があると考えています。これにより、どの社会変革を社会に定着させるべきかを決定するプロセスに、すべての人が関与できるようになります。
社会正義のための7つの運動
公民権運動: 1950年代から60年代にかけて、公民権運動はあらゆる人種や民族に対する人種差別を終わらせ、すべての人に対して投票権を確保し、社会内の経済的不平等を減少させることを目指しました。
公民権運動の父と呼ばれる、アメリカのキング牧師は有名ですね。社会のテストでは必ずといっていいほど出題されたことを覚えている人も多いことでしょう。
以後も、ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)運動がその流れを引き継ぎ、偏見や不正と戦っています。環境活動: 環境問題も社会正義の問題です。気候変動活動家たちは、地球を保護し、気候変動の影響を軽減することで、地球が健康であり続け、すべての住民にとって持続可能なものであることを確保しようとしています。
刑事司法改革推進のための運動: 法律は伝統的な意味での平等を保証しているかもしれませんが、特定の活動家は、すべての人にとって本当の平等を達成するためには、さらなる見直しが必要だと信じています。そのため、司法制度内で特定のグループが直面する格差を指摘し、改善を目指しています。
ジェンダー平等運動: 何世紀にもわたって、フェミニストたちはジェンダー平等への追求において、社会正義を重要な要素としてきました。たとえば、参政権の獲得や、近年日本でも聞かれるようになった「同一労働同一賃金」の取り組みは、社会正義の一環です。
労働者運動: 産業革命以来、社会正義は人の社会階級や経済的地位にも影響を与えて来ました。労働者を取り巻く活動は、雇用条件・労働条件の改善を求める活動から、公共政策としての富の再分配にいたるまで多岐に渡ります。
LGBTQ+活動: LGBTQ+コミュニティとその支持者たちは、長年にわたり法の下で平等な扱いを求めて政策立案者に働きかけてきました。21世紀に入ってからは、同性婚の合法化に道を開きました。それでも、性的指向や性自認による差別が日常的に存在しているため、真の社会正義のための闘いはまだ終わっていません。
ユニバーサルヘルスケアの推進活動: 一部の活動家は、すべての人が無料の公的医療制度に平等にアクセスできるようにならない限り、包括的な社会正義は達成できないと考えています。これには、メンタルヘルスと福祉も含まれます。
さて、いかがだったでしょう?私は、なんとなくわかったつもりになっていた社会正義について、整理されたかなと思います。
みなさんの中には、「ふーんって感じ」とか「自分の生活とは関係ない」とか「ピンとこない」とかなどなどあるかもしれませんが、ここまで読んでくれたあなたは、きっと関心があるんだと思いますよ。よかったら、これからも一緒に勉強していきましょう!