ゴブリンも歩けば腰巻が取れる

どこにでもいるゴブリン、タローニャと弟のジローニャはラボンの森を巡回中だ。


そうだ、まず説明しよう。ラボンの森では、珍しいアイテムがあまりでないことから、冒険者たちも寄り付かず、倒してもあまり価値のない者たちが多く暮らしている。ゴブリンもそうだった。弱いものたちで寄り添って暮らす場所であり、愚かな人間どもには用のない森のはずだった。

しかし、平和もつかの間。荒らすものが出入りするようになる。ラボンの森を抜けたジェローラ地方に魔法使いを育てる学校ができたらしく、授業という名で採集や戦闘訓練などがこの森で行われるようになってしまった。今では魔法制御もできない小童どもが高威力の魔法をぶっぱなし、採集という名で木の実を取りつくし、探索という名で、あちらこちらに転送ポイントを設置する。

弱いものたちは慎ましく静かに生きたいだけなのだ。残忍で知能が低いと言われるゴブリンだろうが、日々平和に暮らしたいと願って何が悪い。

そんな中、ゴブリン兄弟の仕事は見つけた転送ポイントを破壊し、住処の安全を守ることである。まだ住処までは発見されてはいないが、それも時間の問題かもしれない。

さて、まぬけなタローニャはいつもどおり、森の中を口笛を吹きながら適当に見回っていたが、まじめなジローニャはあたりをキョロキョロと見まわしながら、新たにできた転送ポイントがないかじっくりと周りをにらみつけていた。ふと違和感を感じたジローニャは前を行くタローニャに叫んだ。

「タローニャ兄さん、そこ!人間がしかけた罠があるよ!」

遅かった。ぼんやりと歩いていたタローニャは、拙い魔法使いの簡単な罠により、木の上につるし上げられた。

「うわっ!なんでこんな罠なんかあるんだ!ジロー!ジローニャ!ロープを切っておろしてくれよ!」

すると暴れるタローニャの腰巻が木の枝にひっかかり、ひらりと舞う。全裸のゴブリンが舞う腰巻を掴もうと必死にもがくが・・・だめだ笑いそう。

「全く。タローニャ兄さんはいつも周りをよく見ないからこんなことになるんだよ、うわっ」

地肌の緑によく合うタローニャお気に入りの薄いベージュの腰巻がひらりひらりとジローニャの頭に覆いかぶさった。とたん、視界を遮られたジローニャは大きな何かにつまづき、転倒、そしてその拍子にジローニャの腰巻もほどけ、ひらりひらりと舞い上がっていく。

ジローニャの腰巻はいつもタローニャのお下がり。洗いつくした腰巻は不死鳥の羽根のように軽い。ひらりと宙を舞ったジローニャの腰巻は、いたずらな風の精霊が吹き飛ばしてしまった。薄い薄いジローニャの腰巻。地肌の緑には合わない、汚れて真っ黒の腰巻はやがて見えなくなった。

全裸の兄弟。一枚の腰巻。

風の精霊の笑い声を聞きながら、舞い上がっていく自分の腰巻を茫然と眺めていたジローニャは何かを決意したように、兄の真新しいベージュの腰巻を自分にまきつけ、吊り上げられた兄を見つめた。

「タローニャ兄さん。僕の腰巻ってにあんなに軽かったんだね。兄さんのこの腰巻、あったかくてずっしり重いや。・・・ねえ、兄さん。歩いているだけなのに何かを失うこともあれば、何かを得ることもあるんだね。」

ジローニャはラボンの森の入り口から聞こえる足音に気づくと足早に住処へと帰っていく。タローニャは裏切られた弟の名を叫びながらまだ全裸で暴れ続けていた。



なるほど。

「ゴブリンも歩けば腰巻が取れる」

僕は、あの小童魔法使いたちがゴブリンの捕獲をするまで全裸のダンスをもう少し見ていようと思う。すごくおもしろいしね。

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