”待つ”っていいな。-映画『雨とあなたの物語』を観て-
12月17日より日本公開予定の韓国映画『雨とあなたの物語』。カン・ハヌル、チョン・ウヒ、カン・ソラと実力派俳優が勢揃いの本作。一足お先に試写に参加させて頂いたので、忘れないうちになるべくネタバレのない範囲で感想を書き留めておきたいと思う。
舞台は2003年。交わるはずのなかった2人の男女が、3つの約束を前提に文通を始めるところから物語は動き始める。その約束とは、「質問しない」「会いたいと言わない」「会いに来ない」ということ。些細な日常を日々共有し合っていくうちに、互いの心の拠り所となっていく2人。会いたい気持ちが募り、”12月31日に雨が降ったら会おう”と約束をすることとなる。これは、移り変わる季節とともに8年間を描く”待つことにまつわる物語”。
主人公2人の共通点は、自分の人生でありながら、その人生に自分がいないこと。1人は、波乱万丈な人生に夢を描けず、誰かのために生きるソヒ(チョン・ウヒ)。もう1人は、好きなことで生きていくべきか、それとも興味のないことを好きになるか、周囲を気にし人生に迷う浪人生ヨンホ(カン・ハヌル)。そんな2人が、ひょんなことから文通をすることになる...
ポスターを見ると、主演は2人のようにも思えるけれど、実際のところは3人目の重要な登場人物が存在。ヨンホと同じ予備校に通うスジンこと、カン・ソラだ。社会人のバイブルといっても過言ではない名ドラマ『ミセン』好きには堪らないケミだと思う。(もう一度この2人が観れるとはっ!この先の展開はネタバレになってしまうので、ここまでに...)
メールやLINEが当たり前の今だからこそ、ゆるりと相手の手紙を”待つ”時間が沁みる本作。待つという言葉を聞くと、その場に佇んで、動かない。前に進まない!そんな印象を持っていたけれど、観終えた後には、その価値観を改めたくなる。
この作品の”待つ”とは、愛する人に想いを馳せ、来たる日まで準備をし続けることなのだと思う。その過程で一喜一憂する感情を大切に丁寧に描いた作品だからこそ、ぐっとくるし共感できる。
そして、解釈の自由度が大きい作品だという点も、この映画の味わい深いところの一つ。映画のタイトル通り「雨とあなたの物語」の”あなた”とは、観る人を意味しているのかもしれない。どう捉えるかはあなた次第。一度で本作の演出やセリフの意味全てを理解するのは難しいとも思ったけれど、それこそが見どころなのだと思う。
とあるインタビューでカン・ハヌル氏が、この作品を”鑑賞しながら頭の中でずっと考えを反芻するようになる”と語っている。まさに、おっしゃる通り。シンプルなメッセージがあるというよりも、観る人が解釈し、自分で意味付けていく。その時間がまた、心地良く、映画を観終えた後の余韻を楽しめる理由の一つなのだと思う。
https://www.kbsworld.ne.jp/entertainment/view?blcSn=57588&rowNum=3
さらに、演技なのか素なのか分からない。そんな自然体のハヌル氏が観れるのも見逃せないポイント。インタビューでは、”いつもはカン・ハヌルより、作品の人物のように見えて欲しいという欲を持って演技をしている。でも今回の作品では、ヨンホがカン・ハヌルのように見えるためにはどうすればいいか、かなり悩んだ。台本自体がそうだったから。監督さんもヨンホとソヒが役者の雰囲気を反映した穏やかな人物であってほしいとおっしゃった。だからヨンホのリアクションや表情が僕に似ているのだと思う”と語っている。
優しく穏やかで、ところどころクスッと笑わせてくれる。そんな彼の演技が素敵で堪らない。
ゆっくりと過ぎていく時間。そして前に進んでいく登場人物たち。大きな出来事や急展開はないけれど、繰り返し観て、その意味を噛み締めたくなる。そして、小さな心情変化の積み重ねが心に沁み、目まぐるしい毎日にほっと一息つきたくなるような作品だと思う。
最後の最後までが、とっても重要なこの映画!これから観る予定の方は、是非、映画が終わるその瞬間まで見届けてほしい。