ネガティブとアジャイル〜「ネガティブ思考こそ最高のスキル」を読んで〜
はじめに
我が愛しの書店、青山ブックセンターをぶらついていたときに一冊の本が目に止まりました。その本のタイトルは「ネガティブ思考こそ最高のスキル」。
いざ手に取った本書はストア哲学からメメント・モリまでの幅広いトピックを取り扱い、過度なポジティブ思考に対する「解毒剤」として処方する痛快な一冊でした。
いつもならブクログに感想を書いて終わりなのですが、これはぜひアジャイルコミュニティの方にも読んでほしい一冊だと感じたため、それとわかりやすいタイトルでnoteとしてまとめることにしました。
解毒剤としての本書
「いかにも」な自己啓発セミナーにおいて、ポジティブ思考の無謬性を信じてやまない人々が熱狂する様の描写から本書は始まります。
ANTIDOTE。解毒剤。その原題が示すように、本書の著者は行き過ぎたポジティブ思考に対して警鐘を鳴らしその危険性を解いています。では、行き過ぎたポジティブ思考とは何か?本書ではいくつかの極端なポジティブ思考が紹介されますが、それらに共通しているのは「ネガティブ思考に目をつぶっていること」でした。
ネガティブな事象は起きてほしくない。
ネガティブな事象はあってはならないものだ。
ネガティブな事象はあってはならないのだから、そのようなものはない。
ポジティブ思考に張り付いた笑顔のテクスチャーでネガティブの萌芽を覆い尽くすようなものは、果たして真の意味でポジティブなのか?そこに対しては疑問を感じますが、ともかく本書であつかう過度なポジティブ思考はネガティブなものの存在を認めません。
なので、失敗というものも認めません。
するとどうなるか?失敗というものはなかったことにされるので、当然そこからの学びもないのです。
そういった行き過ぎたポジティブ思考の危険性について諭し、「ネガティブ・ケイパビリティ」を持ち不確実性に備えよう、というのが本書の主要なメッセージのひとつです。
ネガティブを抱擁せよ
本書にある印象的ないくつかのフレーズの中のひとつに、以下があります。
これはエフェクチュエーションについて説明されている箇所なのですが、ここでは目標達成を意識しすぎて未達の可能性を口にできない、途中で目標を変更できないといった硬直を避け柔軟に意思決定することの大切さを説いています。
また、失敗博物館を例にとり、失敗を隠蔽するのではなく見える化しそこから学ぶことの大切さについて説いています。
かりそめの安心安全
さらに本書では安心安全の誤謬についても核心に触れていきます。心理的な安心感を得るために安全を犠牲にした意思決定を日々行っている、という本末転倒な行動を、実は日々行っているという話。
ステークホルダーに向けた資料の過度なつくりこみなどがわかりやすいですが、我々が日々業務を行う中でもこの「安心のために安全を犠牲にする」行動は行われています。チームの内側を見える化し真の価値にフォーカスするアジャイルを推進していると、この安心安全の誤謬と衝突することがままあります。
安心を得るために不確実性に蓋をする。そうすると予測どおりの結果は得られるでしょう。でもそれは「確実に失敗する」という緩やかな死を迎えるだけかもしれない。だからこそ、ストア哲学の力を借りてネガティブと向き合う。自分たちにとって不都合なネガティブをなかったことにするのではなくしっかり向き合おうというのが、本書が主張するところです。
ネガティブとアジャイル
アジャイルコミュニティにはポジティブが溢れています。なので、ネガティブを中心に取り扱った本書を読んでいて、なぜアジャイルコミュニティが頭に浮かぶのか最初は自分自身よくわかっていませんでした。
その思索を深める中でわかったのは、アジャイルコミュニティの人はたしかにポジティブ、というか人々や物事をポジティブに捉えることに長けているけれども、ネガティブに蓋をしているわけではないということです。
ネガティブがそこにあるものだと考えるから、失敗があってもそれを受け入れる。受け入れたうえで改善する。
ネガティブがそこにあるものだと考えるから、不確実性はあるものだと捉えられる。不確かな状態でいることに耐え、変化していける。
ネガティブを受け止め、そのうえで前に進むためにどうしたらよいのかポジティブに考える。包容力がありつつ、うまくリフレーミングして前進につなげてしまう真のポジティブさが、アジャイルコミュニティにはあるんです。
逆に、うまくいかないアジャイルチームはポジティブではあるけれどもネガティブ・ケイパビリティがないチームです。ネガティブ事象を不必要にリフレーミングして視界から消し飛ばす。そうしてしまうとそのネガティブから学び成長する機会は、永遠に失われてしまいます。
おわりに
つらつらと書いていきました。
邦題こそ「ネガティブ思考こそ最高のスキル」という煽り気味のものとなっていますが、ただネガティブになろうぜと謳う単純なものではなく、ネガティブがもたらす利点についても語られた良書でした。
このnoteのタイトルや本文でも触れたとおり、この本はぜひアジャイルコミュニティの皆さんにも読んでいただきたい、と感じています。
不確実性を受け入れる。失敗を認めそこから学ぶ。最悪の事態を想定しながら計画づくりを行う。う〜んアジャイル、まぎれもないアジャイル。
過度なポジティブ思考から脱却し、ネガティブと正しく向き合いながら日々プロダクトを開発する。そういったあり方が、今求められています。本書をヒントに、ネガティブと向き合える自分、チームをいかにつくるか、思いを馳せてみてください。
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