自己組織化チームは一日にして成らず〜「1分間エンパワーメント」を読んで
1分間エンパワーメント
「1分間マネージャー」等でおなじみのケン・ブランチャードによる著作。タイトルとは真逆の、「エンパワーメントを組織に浸透させるには信念と忍耐強さ、長い時間が必要」ということがよくわかる一冊。
自己組織化チームの重要性が喧伝されるようになって久しい中、どのように自己組織化するべきかについて悩むケースは多い。そして本書が提示するエンパワーメントの必要条件はその悩みと寄り添い、解決へと導いてくれる。
3つの鍵
情報共有、境界線による自律的行動の促進、そしてセルフマネジメント。これらがエンパワーメントには必要であると本書は説く。
情報が閉じられることでその外側にいる社員が疎外感を感じること。
境界線を明確にするというのは官僚主義的に縦割りにするわけではなく、ゴールと個人の考えを結びつけるものだということ。(これはOKR的な発想だ)
そして権限を移譲し、自分たちで考えるセルフマネジメントチームに育てること。「社長からの電話と顧客からの電話、どちらを先に取る?」は重要な問いだ。
不満期を越えて
これらの要素が揃っていれば、はいエンパワーメントできあがり、ではない。
この本の素晴らしいところは「情報の開示、権限の移譲はメンバーたちに戸惑いを与える」という点に触れていることだ。とにかくオープンにすれば、ボトムアップにすればエンパワーメントは向上するか?目覚ましい成果は出るか?否、である。
旧来型の価値観にはある種の居心地良さがあるし、マネージャーがリーダーシップを発揮し強烈に舵取りをしなければもとの組織構造に収斂してゆく。改革を叫び枠組みを与えるだけでなく、ともに走ることが必要だということがよくわかる。
ここで紹介されている、エンパワーメントへと向かうジャーニーはタックマンモデルと類似している。多様性をもった人の群れがチームとなり力を発揮するには、一度は混乱し不満が蓄積される状況は不可避であるということがわかる。よって、忍耐が求められるわけだ。
星野リゾートの再生
この改訂版には、星野リゾート代表によるまえがき、あとがきが寄せられている。この後書きが白眉だ。
本書で紹介された3つの鍵をどのように実践していったのか、実にリアルな体験談が紹介される。社内から声を上げても聞いてくれなかった板前が、顧客からの声という客観的な「情報」を見える化したことで動き出したというのは特にわかりやすいエピソードだろう。
スローガンではなく実践を
本書を読了して痛感したのは、声高に自己組織化を叫ぶだけではだめだということだ。
自分で動いていいよと言われても、意思決定のやり方がわからない。責任範囲が大きく、怖気づいてしまう。
そういった現場のリアルと向き合い、教育し、根気よく成長してゆく。それこそがエンパワーメントに必要なことだ。