チームでスクラムガイドを読んだ(2020年版)
はじめに
この記事はいちばんやさしいdora_e_mの Advent Calendar 2020、要するに一人アドベントカレンダーの22日目のために書いた記事だ。
2020年は、スクラム開発にまつわる印象的なトピックスがいくつかあった。
名著、SCRUM BOOT CAMP THE BOOK 増補改訂版の出版。
SCRUMMASTER THE BOOKが出たのも今年だった。
スクラムフェス大阪2020がオンライン大規模カンファレンスの嚆矢となったのは記憶に新しい。
そして、スクラムガイドの改訂。
ふりかえってみると、スクラムにまつわる動きがいつも以上に激しかったように思える。
この記事ではその大トリを飾った「スクラムガイド」の改訂版をチームで読み合わせた話について書く。
この記事で扱うこと
私のチームが読み合わせを通して学んだこと。
1年前に行った2017年版の読み合わせで得た感触との違い。
本稿では、こういった「スクラムガイドの読み合わせを通して得られる学び」を扱っていく。
この記事で扱わないこと
スクラムガイドのアップデート内容に対する考察。それは既に様々な方・組織が実践済だ。(以下に紹介する記事は非常にわかりやすいので、「何が変わったの?」ということに興味がある方はこちらをご確認いただくことを勧める)
前提:どんなチームか
・PO、SM含め8名
・研究開発部門
・2018年12月よりスクラム本格導入
(それまでプラクティスのつまみぐいはしていた)
・2週間スプリント
読み合わせの場づくり
読み合わせは下記のように進めていった。
・全3回、計2時間(60分,30分,30分)
・1パラグラフずつ進める
・1人が音読
・全員で解釈について議論
ここからは、実際に読み合わせを行ってどうだったかについて書いていく。
議論になった部分
自己組織化→自己管理への変化
「自己組織化」というキーワードは、チームが目指すべき形としてよく用いているキーワードだったこともあり、ここがなぜ変更されたのかという点が話題に上がった。
2017年版では、「開発チーム」はHowに責務を負っていた。チームの外にいたPOが内包され、Whatもチームの管理下に置かれたからではないか。Why/What/Howを、向かう先を含めて「自己管理」することがスクラムチームに求められるようになったので変更されたのだろう、というのが我々の結論だった。
(後日、scruminc.japanの解説資料を確認すると同様の解釈が提示されていた)
スクラムマスターの重要性が増した?
「真のリーダー」とまで称されるスクラムマスターは、明らかに重要性を増しているという話になった。(余談だが、読み合わせのあとに「真のリーダー」というslack emojiが誕生した)
プロダクトオーナーが分断されそう
2017年版と異なり「スクラムチーム」として内包されたけれども、記述されている責務範囲を額面通り受け取ると、チームからは阻害されてしまうのでは?という意見が出た。プロダクトゴールの策定、プロダクトバックログアイテムの作成、並び替えがプロダクトオーナーの責務であり、これをプロダクトオーナーが「一人で」「誰の意見も聞かず」やるべき、と解釈してしまうと、確かにそうなりそうだ。
こういった各々が感じた疑問を上げ、チーム内で解釈を練り上げる作業が幾度となく発生した。
再認識したこと
プロダクトバックログアイテム(PBI)はスクラムチームにとって非常に重要なものであるということ。
自分たちのチームは、スプリント期間中にステークホルダーに共有し合意形成するパターンが多いため、スプリントレビューの立ち位置に迷うこと。
解釈のすり合わせ
デイリースクラムの項目に、下記の記述がある。
デイリースクラムは、コミュニケーションを改善し、障害物を特定し、迅速な意思決定を促進する。その結果、他の会議を不要にする。
この記述に対して、「文章をそのまま受け取ると、コードレビューやI/Fの相談なども行わないほうがいいようにも思える」という意見が上がった。これは「会議」というものに対する解釈が多義的であるために起こった議論だ。
チーム内で話し、「PBIを完成させるために必要なことはなんでもやる」ということで合意形成したが、個別にガイドを咀嚼していたら「レビューや相談は行ってはいけない」と思っているメンバーが存在していたかもしれない。こういったとらえ方の差異を明らかにし、チームで方向を揃えるというのは読み合わせの大きな意義のひとつだ。
初参加だからこその気づき
私たちのチームは、2週間スプリントを採用している。初めてスクラムガイドを読んだメンバーからは「スプリントは短ければ短いほど良さそうに見える。なぜ2週間でやっているのか」という質問が飛んできた。
これは、自分たちの標準的なリリースサイクルが2週間だというところに依拠している。完成の定義を満たすものが生まれるサイクルとスプリントのサイクルが合致するのが、今のところ2週間なのだ。
こういう、チームとしては当たり前になっているところを再確認できるのは何か基準があってのことだ。今回は初参加者が疑問を投げかけてくれたが、スクラムガイドという基準は当たり前を見直すきっかけを与えてくれる。
前回実施時からの変化
ほとんどのメンバーから「前回読んだときよりしっくりきた」という感想が得られた。
また、「チームでやっていることとスクラムガイドが合致している」という感想も見られた。私自身、そこは同様に感じている。
これは自分たちがカイゼンを繰り返しながら、よりガイドに接近していったという見方もあるし、ガイドが今回の改訂で「現代のスクラム」に寄ってきたからなのでは、という仮説もある。
たとえば「プロダクトゴール」の設定。バックキャスティングに考えるやり方がスクラムのこれまでのあり方と合致するのか?というのは議論の余地があるとおもうが、自分たちのチームのやり方としてはマッチしている。
読み合わせの効果
読み合わせを行うことで得られた効果を列挙する。
・スクラムガイドに対するチームの解釈をそろえられる
・習慣化しているプラクティスを見直す機会になる
・期間を置いて読み合わせを実施することで、ガイドの目線から自分たちの成長を推し量ることができる
スクラムを実践しているチームは、定期的に読み合わせを実施するのがよいな、と今回おこなった2020年版の読み合わせを通して感じた。